寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「ヴァルトお兄様……」

 胸に奪った守り石を握り締め、ツェツィーリアは放心したようにジークヴァルトの顔を見上げた。逆光でよくは見えないが、リーゼロッテを腕に抱いたまま、ジークヴァルトは無表情で自分を見下ろしている。

「ツェツィー、少しおいたが過ぎたようだな」
 そう言ってユリウスが、ツェツィーリアから守り石を取り上げた。

「自分が何をしたのか分かっているのか? 子供だからと言って許されない事もあるんだぞ」
 いつになく厳しい口調のユリウスに、ツェツィーリアはその顔を青ざめさせた。

「ち、違うもの。わたくし、何もしてなんか……」
 言い訳をしようにも言葉が出てこない。くやしくてじわりと涙がにじんできた。

「ユリウス様……ツェツィーリア様のおっしゃる通りですわ」
 力ない声のままリーゼロッテは微笑んだ。

「ツェツィーリア様がジークヴァルト様の守り石を見てみたいとおっしゃるので、わたくしが自分ではずしてお渡ししました。そばにいれば問題ないと思ったわたくしが軽率でしたわ」

「このお転婆をかばったところで、ろくなことはないんだが……。まあ、そう言うことにしといてやるよ」

 一部始終を見ていたユリウスは、仕方ないといったふうに肩をすくめて見せた。

「というわけで今回はお咎めなしだ。ただし、次はないと思えよ?」

 へたり込むツェツィーリアを抱き上げると、ユリウスはサロンの入り口へと向かっていった。その後ろ姿を見送ってから、リーゼロッテはジークヴァルトの顔をおずおずと見上げた。

「ヴァルト様、わたくしまたご迷惑をおかけしてしまって」

 もう自分で自分が嫌になる。この腕から降りなくてはと思うも、今はまるで力が入らない。

「お前に落ち度はない」

 そっけなく言うと、リーゼロッテは部屋へと運ばれ、そのまま寝台の中へと押し込まれてしまった。

「今日はゆっくり休め」
 それだけ言って、ジークヴァルトは部屋を後にした。

「わたくし、本当に無能だわ……」
「お嬢様……」

 ぽつりと漏れ出た呟きに、そばにいたエラが悲しげな顔を向けた。ツェツィーリアの言うことは、何も間違ってなどいなかった。


 その日リーゼロッテは、胸に抱いたアルフレートに慰められながら、涙ながらに一夜を明かした。





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