寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「気に入らないわね」

 リーゼロッテの胸元に下がっていた守り石を小さな手に取り、ツェツィーリアはぎゅっと握りしめた。

「これはあなたには相応(ふさわ)しくないわ。わたくしが貰ってあげる」

 守り石を乱暴に奪い取り、ツェツィーリアはいきなりチェーンを引きちぎった。勢いで手前にたたらを踏んだリーゼロッテは、ツェツィーリアに倒れ込まないようにと何とかその場で踏ん張った。

「ツェツィーリア様、わたくしそれがないと……!」

 慌てて守り石を取り戻そうと手を伸ばすも、ツェツィーリアは距離を取るように素早く数歩飛びのいた。

「あなたには不相応(ふそうおう)と言ったでしょう? 身の程を知りなさい」

 次の瞬間、青い守り石をぎゅっと握りしめたツェツィーリアの目の前で、リーゼロッテが真っ黒い(かたまり)に包まれた。

「ひっ」

 一瞬の出来事に、ツェツィーリアは悲鳴を上げた。真っ黒い(けが)れの塊が、覆いつくすようにリーゼロッテが立っていた場所で(うごめ)いている。耐え難いほどの禍々(まがまが)しさに、ツェツィーリアはその場で尻もちをついた。

 何が起きているのか理解できない。恐怖だけが、ただツェツィーリアを支配した。

「リーゼロッテ!」

 慌てたようなユリウスの声がする。その刹那、黒い塊の中から幾筋もの緑の光が放たれた。

 まるで羽毛が舞い飛ぶかのように、黒い穢れがふわっと(ほど)けていく。その中心で浮いているのは、両手を小さく広げたリーゼロッテだった。瞳を閉じたままの顔を上向かせ、浄化の緑がその体を中心に放射状に広がった。

 まるで祈りのようだ――幼いツェツィーリアはそんなことを思った。春の日差しの中、その浄化の緑は何の境目もなく広がって、そのままあるべき場所へと還っていく。

 ふっと力が抜けたようにリーゼロッテの体が崩れ落ちていく。それを素早く受け止めたのは、いつの間にかこの場に来ていたジークヴァルトだった。

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