寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
「ヴァルトお兄様!」

 ジークヴァルトの姿を見つけると、ツェツィーリアはその腕に飛び込んだ。走り込んできたツェツィーリアを、ジークヴァルトは表情なく当たり前のように子供抱きに持ち上げた。

「遅いわ、お兄様。わたくし退屈でどうにかなりそうだったのよ」
「そうか」

 ツェツィーリアは甘えるようにしがみつきながら、ジークヴァルトの隣にいたリーゼロッテにふふんと得意げな顔を向けてきた。微笑ましそうに目を細めたリーゼロッテを見て、今度はむっとした顔をする。

「こんな時間まで起きていて大丈夫なのか? いつもはもう寝ている時間だろう」
「もう、お兄様ったら。わたくしもう八歳になったのよ? 子供扱いなんてしないでほしいわ」
「そうか」

 台詞とは裏腹に、ツェツィーリアはふぁと大きなあくびをした。

「ねぇお兄様、リーゼロッテお姉様のお部屋までこのまま連れてって」

 これ見よがしにジークヴァルトの首に手を回すと、再びリーゼロッテをどや顔で見やる。

「ツェツィーは今夜もダーミッシュ嬢の部屋に泊まるのか?」
「もちろんよ。だってわたくし、お姉様のことが大好きだもの」

 顔を覗き込みながら言うツェツィーリアに、ジークヴァルトの眉がピクリと動いた。ツェツィーリアには別で部屋を用意してある。しかし、その部屋が使われたのは、最初の一日だけだった。
 おかげでジークヴァルトはリーゼロッテと過ごす時間をゆっくりと取れない日々が続いている。それでなくとも忙しい毎日だ。

「旦那様、そろそろレルナー家に連絡いたしましょうか?」

 マテアスの言葉に、ツェツィーリアがおびえるように身を縮こまらせた。ジークヴァルトはツェツィーリアを軽く抱え直すと、リーゼロッテに目配せを送ってからそのまま歩き出した。

「いい。迎えが来るまで好きなだけいるといい」
「大好き、お兄様!」

 再び首にしがみつくとその肩越しにリーゼロッテを見下ろし、次いで勝ち誇ったような顔を向けてくる。ジークヴァルトの後を追いながら、リーゼロッテは困惑したような曖昧な笑みをツェツィーリアに静かに返した。

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