寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
     ◇
 晴れた日の午後の庭で、リーゼロッテが一面の雪に瞳を輝かしている。年が明けてからというもの、ずっと屋敷に閉じこもりきりになっている彼女のリクエストで、(あるじ)付き添いの元で庭の散策がなされていた。

 最近の(あるじ)は、リーゼロッテから片時も離れようとしない。屋敷の中では可能な限りそばに置こうとするし、王城へ出仕する日ですらリーゼロッテを一緒に連れて行っている始末だ。

 新年を祝う夜会で王太子の命が狙われたという話はマテアスも聞かされていた。そして、リーゼロッテもまた、得体のしれない凶悪な力に襲われたということも。

(まあ、不安に思うのも仕方のないことか……)

 ジークヴァルトの力ですらはじき返されたらしい。そんな強大で禍々しい力など、マテアスには想像すらできなかった。

 敵の正体も分からない。リーゼロッテのみが狙われた理由も不明なままだ。その上、自分の力で守り切れなかったとなると、ジークヴァルトのダメージの大きさは相当なもののはずだ。

 異形の憎しみは、常にジークヴァルトに向けられている。それがフーゲンベルクを継ぐ者に課せられた宿命だ。その(たて)の力を跳ね飛ばせるくらいなら、初めからジークヴァルトだけを襲えばいい。それなのになぜ、標的はリーゼロッテだったのか。

(しかもその邪気を、リーゼロッテ様が一瞬で消し去ったというのだから驚きですねぇ)
 正確に言うとリーゼロッテの母・マルグリットの力らしいが。

(ラウエンシュタインの末裔、か……)

 リーゼロッテの華奢な背をじっと見つめる。同じ公爵家でありながら、ラウエンシュタインの系譜は長く謎に包まれてきた。そのひとり娘がフーゲンベルクに嫁ぐなど、歴史の中で一度もなかったことだ。

(龍とは一体何なのでしょうねぇ)
 子供の頃から当たり前のように受け入れてはきたが、今さらながらにそんなことを思った。

「ヴァルト様、雪ですわ!」

 降り積もった白銀を前に、白い息を吐きながらリーゼロッテはいつになくはしゃいでいる。この雪深い国では見飽きすぎる光景だ。彼女は外に出ることも許されなかった深窓の令嬢なのだと、改めてマテアスは思っていた。
 そう思うとそんなリーゼロッテの姿にもほっこりしてくる。だが、前のめりになるリーゼロッテを、ジークヴァルトは頑として腕の中から離そうとはしなかった。

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