寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「お怪我はありませんか? わたしの美しい人」
「わ、わたくしはあなたの物ではないわ」

 強い語調で言うと、ルカは真剣な瞳のまま、ツェツィーリアの前で跪いた。

「わたしはまだ未熟な身。もっと貴族として、男として、認められる立場になったら、あなたに求婚することを許してもらえますか?」
「きゅ、求婚!?」

 ルカは真剣な眼差しで頷いた。

「む、無理よ、そんなこと。わたくしの結婚相手はお義父様が決めるのだもの。貴族として、それは当たり前の事でしょう」

 ルカにというより、ツェツィーリアは自分に言い聞かせるように言った。本当は分かっていた。いつまでもジークヴァルトの迷惑になり続けることなど、できはしないのだから。

「ツェツィー様にはすでにご婚約者がいらっしゃるのですか?」
「いえ、まだいないけど、でもそのうち決まってしまうわ」
「分かりました。では、もし正式にお相手がお決まりになりましたら、わたしにその方の名を教えていただけますか?」
「教えてどうするのよ?」
「ツェツィー様に相応(ふさわ)しい相手か確かめるために、決闘を申し込みます」
「け、け、け、決闘!?」

 大真面目に頷くルカにツェツィーリアはぽかんと口を開けた。

「あなた馬鹿じゃないの? 決闘は国で禁止されているのよ? なんでそこまでする必要があるのよ!」

 早口にまくしたてると、ルカは少しだけ悲しそうな顔をした。

「わたしは、ツェツィー様を誰にもとられたくありません」

 跪いたまま、懇願するようにツェツィーリアの手を取った。

「わたしは伯爵家を継ぐ身。公爵家のご令嬢であるツェツィー様は、わたしにとっては身分違いの恋です。ですが、立派な人間となって、必ずあなたを幸せにすると誓います」
「わた、わたくしに言われてもどうしようもできないわ。そんなに言うならお義父様に言ってちょうだい」
「分かりました。必ずや、レルナー公爵様を説得して見せます」

 ルカはツェツィーリアのスカートの裾を持ち上げて、その先にそっと口づけた。これは姫君に対して生涯の忠誠の誓いを立てる騎士の儀式のようなものだった。

「ななな……」
「ななな?」
「何なのよ、あなた!」

 絶叫のような声が廊下へと木霊していく。

「わたしはルカ・ダーミッシュ。あなたの美しさに心を奪われた男です」

 天使のような笑顔のまま言われ、ツェツィーリアは本気で卒倒しそうになった。

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