寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 その横でリーゼロッテもエマニュエルを師に、フーゲンベルク領について学んでいる。ジークヴァルトには別にそんなことをする必要はないと言われたが、リーゼロッテにも思うところがたくさんあった。

(わたしもイザベラ様をみならわなくちゃ……)

 イザベラは先日のお茶会の日に、エーミールの案内の元、厩舎(きゅうしゃ)だけでなく公爵家の一大産業である家具職人の作業まで見学しに行ったらしい。彼女は本気でフーゲンベルク家の女主人になるべく、これまで努力を重ねてきたのだ。
 それは無駄な行いだと笑うこともできるだろう。ジークヴァルトの相手は、龍によって選ばれてしまっている。しかしリーゼロッテは、そのイザベラの行動力を否定する気にはなれなかった。

『そんな状態で婚約者だとふんぞり返られても、まったく話にならないわね』

 イザベラの言葉が胸に刺さった。あんなふうに言われてひどいと責めたくもなったが、そう思うのは図星を指されたからだ。

(今までわたしは何をしてきたかしら……)

 守られるばかりでは嫌だと言って、それなりに力の制御の訓練はしてきた。だが、所詮はそれなりだ。

(結果が伴わなければ意味がないわ。もっとヴァルト様のためになることを考えなくちゃ)

 そこで思いついたのがこの勉強会だ。託宣や異形に関する知識をきちんと身につけた方がいいと、ジークハルトに言われたことを思い出す。フーゲンベルク家の書庫に、その手の書物があると王子も言っていた。
 託宣にまつわる書物は奥書庫にしまわれているので、ジークヴァルトが来てからそこを開けてもらうことになっている。今はエマニュエルと共に公爵家の歴史を勉強中だ。

「では、わたしたちはもうしばらく続けましょうか」
「はい、お願いしますわ、エマ様」

 エマニュエルの言葉に姿勢を正した。その後方で、カークがじっとその様子を見守っている。
 地形や気候、主な産業、領民の生活。フーゲンベルク家の歴史は長い。それは王家と並び、建国以来から続いているため、学ぶことも膨大だった。
 力の制御の訓練の時も思ったが、エマニュエルは教えるのがとてもうまい。説明が分かりやすいし、何より飽きさせないでいてくれる。

「エマ様は本当に何でも知っていらっしゃいますのね」

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