寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「旦那様、奥書庫で公爵家の呪いを発動させないでくださいね。本棚が崩れると厄介ですので」
「わかっている」

 リーゼロッテの手を引いて奥書庫へと入ろうとしていたジークヴァルトに、マテアスが釘を刺すように言った。

「ねえ、マテアス。公爵家の呪いが起こるのには、何か特別な条件があるの?」

 ジークヴァルトの腕の中で、リーゼロッテはこてんと首を傾けた。自分とジークヴァルトが近づくと、異形が焦って騒ぎ出す。そうジークハルトから言われた覚えはある。四六時中ジークヴァルトのそばにはいるが、だが、常に呪いが起きるというわけではなかった。

「はぁ、何と申しますか、その……」
「マテアス」

 制するようにジークヴァルトがマテアスを睨みつける。

「ヴァルト様、わたくしにもできることがありましたら、呪いが発動しないよう努力いたしますわ」
「……ダーミッシュ嬢がどうという話ではない」
「ですが……」
「いい。これはオレの問題だ。お前に落ち度はない」

 拒絶するように言われて、それ以上は何も言えなくなってしまった。リーゼロッテは俯いて、「出過ぎたことを申し上げました」とぽつりと返した。

 ジークヴァルトはいつもそうだ。何かを聞いても、大概の事は問題ないで済まされてしまう。

(いいえ、お忙しいヴァルト様をこれ以上煩わせてはいけないわ)

 そう自分に言い聞かせ、リーゼロッテはジークヴァルトと共に奥書庫へと足を踏み入れた。

 奥書庫はそれほど広くはなかった。並ぶ本棚と本棚の間は狭く、人ひとりが通れる程度の幅だ。ジークヴァルトに手を引かれるまま、薄暗い中リーゼロッテは歩を進めた。

「託宣に関する書物はこっちにある」

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