寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
 誘導してもなかなかその本にたどり着かない。焦れたようにリーゼロッテはジークヴァルトの袖をつかんだ。

「そちらに行って自分で取りますわ」
「おい」

 ジークヴァルトと本棚の隙間を通ろうと、その間に無理やり体を滑り込ませた。体を(なか)ばまで押し込むと、ジークヴァルトと向かい合ったまま、そこで身動きが取れなくなってしまった。
 焦って体を動かすも、行くも帰るもできなくなる。スカートがジークヴァルトの足に巻き付いて、さらににっちもさっちもいかなくなった。

 ジークヴァルトの眉間が苦し気に寄せられた。リーゼロッテのお腹のあたりに、何か硬いものが当たっている。ポケットに何かを入れているのだろうか? ごりごりと当たっているので、それが痛いかもしれない。

「ヴァルト様、痛いのですか? 申し訳ございません、今すぐどきますわ!」

 何とか通ろうともぞもぞ体をねじっていると、ジークヴァルトが慌てたように頭を抱え込んできた。

「待て、いや、駄目だ、今は動くな、いいからそこでじっとしていろ」

 珍しく切羽詰まったような声に、リーゼロッテは動きを止めた。その瞬間、ざわりと空気が揺れる。

(公爵家の呪い? よりにもよって今……!?)

 このざわつきは異形が騒ぎ出す前兆だ。こんな状態で本格的に暴れられたら、最悪、本に埋もれてたいへんなことになる。身をこわばらせると、ジークヴァルトはさらにきつく頭を抱えこんできた。

「いいから動くな、大丈夫だ、すぐに落ち着く、とにかく動くな、いいから黙ってそのまま動かず何でもいいからじっとしていろ」

 矢継(やつ)(ばや)にまくしたてられ、リーゼロッテは言われた通りに動きを止めた。ジークヴァルトにしがみついたまま、身じろぎひとつしないよう息をひそめる。

 頭の上でジークヴァルトが深呼吸をしている。すーはーと繰り返される息が、リーゼロッテの頭頂部をくすぐった。それでも瞬きひとつしないよう、リーゼロッテはじっと身を縮こまらせた。

 ジークヴァルトは最後に長く息を吐き、その体から力を抜いた。気配を探ると、異形たちもすっかり落ち着いたようだ。

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