寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「慌てなくていい。ゆっくり通れ」

 そう言ってジークヴァルトは、手を突っ張って隙間を開けた。言われた通りにリーゼロッテは、慎重にスカートを引きながら、そろりそろりと奥へと移動した。ようやく通り抜けられて、ふたりして安堵の息を漏らす。

「わたくし、考えなしなことをして、本当に申し訳ございません」

 まさかハマったまま動けなくなるとは計算外だ。ジークヴァルトは無表情のまま、「問題ない」とついと顔をそらした。

「で、どの本だ?」

 本題に戻されて、リーゼロッテは目の前の本棚を見上げた。先ほど気になった本の真下に来たようだ。

「この上の……」

 背伸びをして手を伸ばしてみるが、あとちょっとの所で届かない。横にあった備え付けの移動式梯子が目に留まった。これに昇れば難なく取れるに違いない。そう思ってリーゼロッテは梯子を掴み、そのまま足をかけようとした。

「いや、待て。何をするつもりだ」
「何をって、梯子に昇って本を取るだけですわ」

 梯子を掴む手を、上からジークヴァルトに掴まれる。かと思うとポールから手を引きはがされた。

「駄目だ、落ちたらどうする気だ」
「数段昇るだけですわ」

 万が一落ちそうになったとしても、こんな狭い場所だ。本棚に手をつけば転がり落ちるのは避けられるだろう。

「いや駄目だ、却下だ、絶対に駄目だ」

 頑なに手を離そうとしないジークヴァルトを、リーゼロッテは困ったように見上げた。王城で階段上からダイブして以来、リーゼロッテが少しでも高いところに昇ることを、ジークヴァルトは必要以上に嫌がるようになった。

(あれは王子殿下に触れてしまったからなのに)

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