寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「雪玉を投げ合う遊びがあると聞いたことがあったのです……」

 しゅんと俯くリーゼロッテの言葉を受けて、ジークヴァルトがマテアスの顔を見た。

「水を含ませれば固まるかも知れませんが……」

 だがそれをすると、雪玉というより氷の塊が出来上がる。もしそれを投げ合うのだとしたら、怪我人が出るのは必至、血みどろの雪合戦となり果てるだろう。

「いいえ、それはきっと危険だわ。無理を言ってごめんなさい」
 リーゼロッテもそのことを理解したのか、すぐさまかぶりを振った。

「みなは雪だるまとか、雪像(せつぞう)などは作ったりはしないの?」
「雪像でございますか?」

 物珍し気に雪を眺める割には、妙な知識ばかりが豊富なリーゼロッテに、マテアスは困惑しきりだ。だが、外に出られない分だけ、書物などに触れて過ごしていたのだろう。そう思い当たると、マテアスはにっこりと笑顔を返した。

「冬の娯楽として凝った雪像を作る者もおりますが、一度吹雪くとすぐ雪に埋もれてしまいますので、みながやっているとは言い難いですねぇ」
「まあ、そうなのね」

 むしろ大概の人間が雪かきにうんざりしていて、雪像を作ろうとする者など変人扱いだ。この国の建物や主要の道路には、雪が積もらないように温泉の熱を利用した工夫が施されている。それでも雪かきの作業がゼロになるというわけにはいかなかった。

「雪かきには塩をまくといいと聞いたことがあるけれど……」

 考え込むようにしたリーゼロッテは、さらに不思議そうな表情をマテアスに向けてきた。

「そういえばこの国は海がないのよね。塩はどうやって手に入れているの?」

 至極当然のようになされた質問に、マテアスはただ面食らった。国内には大雑把な地図しかでまわっていない。それは詳細な地形が他国に渡らないための手立てだったが、そもそも貴族令嬢が国の地理に疑問を抱くなど、普通ではあり得ないことだった。

 封建的なこの国に、他国の情報が入ってくることはほとんどない。中には外国などというものの存在すら知らない者がいるくらいだ。まして海など聞いたこともない言葉の筆頭だろう。

 ダーミッシュ家の書庫がどうなっているのか、一度は覗いてみたい。そんなことを考えながら、マテアスは気を取り直すようにリーゼロッテに糸目の笑顔を向けた。

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