寡黙な公爵と託宣の涙 -龍の託宣3-
「さあ、旦那様はこちらで執務の続きをなさってくださいね」

 先ほどまでエラたちと座っていた書庫のテーブルに、山盛りの書類が積まれていた。嫌そうにその前にジークヴァルトが座ると、リーゼロッテはその横の椅子に腰かけた。

「お前はこれを読んでいろ」

 ジークヴァルトは自身が選んだ本を一冊手渡すと、すぐに書類仕事に取り掛かり始めた。

「おや、ずいぶんと懐かしい。そちらはフーゲンベルク家に代々伝わる子供向けの教本となっております」
「子供向けなの?」
「はい、公爵家には力ある者が多くお生まれになりますので、幼少期にそれを用いて、異形の者や浄化の力、託宣にまつわる知識などを勉強なさるのですよ」

 ぺらぺらとめくってみると、ところどころに挿絵などもあり、確かに読みやすそうな内容だった。

(でも子供向けというには字が細かいわね)
 詰まった文字に少々臆している自分がいる。

「旦那様などは五歳の折には読破なさっておりました」
「五歳!?」

 驚いたように声を上げると、マテアスが笑顔を向けてきた。

「旦那様は規格外のお方ですから。アデライーデ様など、結局は半分もお読みになられませんでしたし」
「そう……なのね」

 なんともリアクションしにくいマテアスの言葉に、リーゼロッテは笑顔ともつかない曖昧な顔を返した。

「そちらは見かけない書物でございますね」

 もう一冊のくすんだ赤い本を見やって、マテアスが不思議そうに問うてくる。結局は中も確認せずに持ち出してしまった。

「なんだか光って見えて気になってしまったの。笑わないで欲しいのだけれど、この本にきのこが生えていたのよ。手にしたらきのこは消えてしまったのだけれど、本当に生えていたのよ?」

 馬鹿にされたくない一心で、言い訳がましく言うリーゼロッテに、マテアスは驚きの表情を向けた。

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