野いちご源氏物語 三九 御法(みのり)
四年前に生死(せいし)(さかい)をさまよわれてから、(むらさき)(うえ)はずっとご体調が今ひとつでいらっしゃる。
重病というのではないけれど、なんとなくのご体調不良でも四年も続けばどんどん弱っていかれる。
<紫の上が亡くなったら、私は一日たりとも生きていられない>
源氏(げんじ)(きみ)があまりにご心配なさるから、紫の上はご自分の命よりも源氏の君のことが気になっていらっしゃる。
<この世の幸せは味わいつくしたし、将来が気がかりな子どももいない。無理に長生きを願う命ではないけれど、私が先に死ねば源氏の君はどうなってしまわれるのだろう>
悲しいまなざしで源氏の君をご覧になる。

あの世でのお幸せを祈ってたくさんのご法要(ほうよう)をなさる。
でも、それだけでは不十分だとお思いになるの。
「やはり出家(しゅっけ)して、残り少ない寿命(じゅみょう)仏教(ぶっきょう)修行(しゅぎょう)に使いたいと存じます」
何度も何度もお願いなさるけれど、源氏の君はお許しにならない。

<私も長年出家したいと思っているのだから、そこまで言うのなら一緒に出家するのもよいかもしれない。しかし出家すれば夫婦ではいられない。来世(らいせ)でもまた夫婦になろうと約束しあっているけれど、死ぬまでは別々に暮らすことになる。病気の紫の上から離れることなどできないし、もし離れたとしても心配で仕方がないだろう。それでは修行に集中できない>
こうしてぐるぐるとお悩みになっているから、深く考えずにさっさと行動する人たちが先に出家していってしまうのよね。

<どうせならきちんとお許しをいただいて気持ちよく出家したい>
源氏の君にその思いが伝わらなくて、紫の上は(うら)めしがっていらっしゃる。
<それとも私は前世(ぜんせ)に大きな(つみ)(おか)して、出家できない運命を背負って生まれてしまったのだろうか。これほどお願いしても許していただけないなんて、そういう(つみ)(ぶか)い身なのかもしれない>
不安になってなおさら出家を望まれる。
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