すれ違いだらけの婚約関係は、3年越しのファーストキスでやり直しましょう ~御曹司の婚約者が嫉妬深いなんて聞いてません!!~
不運というのは、生涯の付き合いである。
例えば、目の前で限定品が売り切れたり、たまたま外に出る日に限ってゲリラ豪雨が襲ってきたり。
ほとんどのことに対しては、「仕方ない」で片付けられるほど、私も大人になったと思う。
すっかり慣れた、はずだった。
「桃華、実はあなたには婚約者がいるの」
22歳の誕生日。
大学卒業と同時に告げられた両親からの衝撃のカミングアウトは、さすがに不運では済まされないと思う。
どうやら私が幼い時、会社を営んでいた祖父が決めた婚約らしい。父はその会社を継がなかったが、婚約は残っていると教えられた。いや、いつの時代の話よ。
と、まあ、知らない内に笑えないことになっていたのだ。無効を唱えたが、それそこ無理だと何度も言われた。
理不尽である。
「とりあえず、桃華が勤める会社へ通いやすい範囲に、マンションを借りていただけることになったの。そこに住んでちょうだい」
「え!?急すぎるよ!!」
「お相手は、世界各国、色んなところを飛び回っているらしいから、心配ないわよ!『桃華さんを1人してしまうことも多いと思うから申し訳ない』なんて言われてるぐらいだし」
母が楽観すぎる。自分ごとじゃないからか、満面の笑みで伝えられても、当事者として困る話。
幸い恋人はいないし、今までできたこともないため、後腐れはない。それだけは不幸中の幸いだ。
「……」
「ほら!とりあえず頑張っておいで!」
友達、彼氏を飛び越え、婚約者。
痛む頭を抱えるしかなかったのを、今でも鮮明に覚えている。