アパレル店員のお兄さんを【推し】にしてもいいですか?

甘く香る

 (誕生日当日は一優さんが出張だったから、今日改めてお祝いをしてくれる)
さゆかは鏡の前で、着ている服を見る。
(大人っぽくて可愛いなぁ。一優さんにこれ着て来てねって渡されたけど…)
ピンポーン
チャイムが鳴り、コートを着て玄関に向かう。
ガチャ
「お待たせ」
「迎えに来てくれてありがとうございます」
「誕生日だから当然。今日はどんなわがままも聞くよ、お姫様」
ニコッと笑って、手を差し出した。
(どうしよう。恋フィルターも加わって、もう王子様にしか見えない!)
「そこまで寒くなくて良かったね」
「ですね」

 電車に乗り目的地へ向かう2人。
「あ、ここだ」
「ここって…」
「香水専門店。自分の好きな香りを調合できるんだよ。せっかくならオーダーメイドが良いかなぁと思って。どうかな?」
「すごい!楽しそう!」
(誕生日プレゼントの希望を聞かれて、香水が良いと言ったけれど、まさかこんなことまで考えてくれるなんて!)
 店内で店員から作り方の説明を受け、作業を始める。
「さゆかは自分の好きな香りで作ってね。俺はさゆかに合いそうな香りで作るから」
「2つもいいんですか?」
「もちろんだよ。その日の気分で好きな方つけたらいいし」
「わかりました」
楽しそうに香りを比べ作業する。

 「こちらが完成したものです。香りのご確認お願いします」
シュッ
店員がムエットに香水を付けた。
「こちらが彼女さんのです」
ふわっ
「イメージ通り良い匂い!」
「優しくてかわいい香りだね」
「こちらは彼氏さんの」
ふわっ
「わぁ、大人っぽくて落ち着く香り」
「気に入ってくれた?」
「はい!好きな香りです」
「よかった」

 店を出た2人は次の場所へ移動し始めた。
「うまく作れるか不安だったけど、想像以上に素敵なのができて大満足です」
「さゆかから香るたびに今日のこと思い出して、幸せな気持ちになるんだろうなぁ」
「ふふ、それは大袈裟ですよ」
(まぁ、私も思い出して幸せに浸るだろうなぁ)
 「着いたよー」
少し薄暗い店内に入ると、ダーツの台がズラリと並んでいる。
「すごーい、すでにこの空間がカッコいい!」
「あはっ、さゆからしい感想」
(この前、話の流れで一優さんが大学生時代にダーツにハマっていたことを知った。ダーツする姿を見たいという私の希望を叶えてもらうためにここに来た)
「ハマってたからって上手いわけじゃないから、あんま期待しないでね」
(いや、もうダーツの矢を選んでる姿がすでにかっこいい)
「久々だからなぁ」
台の前に立ち、構えて狙いを定める。
シュッ
真ん中にあるBULLの少し横に矢が刺さった。
「かっこよ…」
あまりのかっこよさに思わず心の声が出る。
「え、写真とか動画撮ってもいいですか!?」
「え!?いいけど…」
一優の姿に見惚れながら撮影をする。
「よしっ」
見事ど真ん中のBULLに命中した。
「すごーーーい!」
「ありがと。さゆかもやってみようよ」
「えっ、できるかなぁ」
「大丈夫大丈夫、こっちおいで」
矢を持ち、構える。
「こうやって…」
手を添えながら、後ろから寄り添う一優。
(近いー。ドキドキして手元が狂いそう)
シュッ、カタン
「あぁー全然だめだぁ」
「初めてだし、当たらなくても大丈夫。それにさゆか多分センスあるよ」
「どんだけ優しいんですか」
 4本目で矢が刺さった。
「やったー!」
「ナイスー!」
一優に手を出され、ハイタッチをした。
「刺さるとこんなに気持ちいいんですね!どうしよう、ハマっちゃいそうです」
「あはは、いくらでも付き合うよ」

 「そろそろ行こうか」
(夜ご飯予約してくれたみたいだけど、どこに行くんだろう)
 様々な施設が入る複合ビルに着いた。エレベーターに乗り最上階のレストランに向かう。レストランに入り、予約していた席に案内された。
「わぁー綺麗ーっ」
窓際の席からは夜景が一望できた。
「夜景デートリベンジしたくてさ」
「嬉しいです!」

 コース料理を注文し、前菜を食べ始めた2人。
「このお店の雰囲気に合うかなと思って、その服選んだんだ。さゆかにも似合ってるし」
「そうだったんですね。すごく気に入ってます」
「スカート似合わないって、初めて接客した時言ってたよね」
「今も思ってますよ」
「でも、俺といる時スカート着てくれること多いよね?」
「それは…一優さんが何着ても褒めてくれるし、その…好きな人と会う時は、女性らしさも取り入れたいというか…」
照れながら話すさゆかを満足げな顔で見る一優。
「さゆかが何でも似合うのは事実だし、それに俺、結構愛されてるんだねぇ」
(一優さん嬉しそう)

 「どれもすごく美味しかったです」
デザートプレートが運ばれてきた。お皿にはチョコレートでHappy birthday SAYUKAの文字が書かれている。
「わぁー嬉しい」
「すみません、写真お願いしてもいいですか?」
店員に写真を撮ってもらった。
「遅くなったけど、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
(彼女としてお祝いしてもらえるなんて、去年の今頃は思いもしなかったなぁ。推しだった人が彼氏になるなんて、今でも夢みたい。いつまで続くかわからないけど、一つ一つの瞬間を大切にしよう)
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