アパレル店員のお兄さんを【推し】にしてもいいですか?

幼馴染

 走りながら校門を出るさゆか。
(何でいきなり補習が入るのよー。家に帰って着替える時間ないし)
一優にLINEを送る。
『すみません。
今日のデート制服で行ってもいいですか!?』
オッケースタンプの返信が来た。
 
 待ち合わせ場所に着くと、さゆかを見ながら一優が言う。
「制服姿とデート…どうしよう犯罪味を感じる」
「なんですかそれー!」
「うそうそ。めちゃくちゃ可愛いよ」
さゆかの頭をポンポンとする一優。

 買い物に行こうと2人が歩いていると、突然パラパラと雨が降り出してきた。
「ひとまずどっか店入ろっか」
 近くのカフェに入った。
「あんまり濡れなくて良かった。風邪引いたら困りますもんね」
「ごめん、俺ハンカチしか持ってなくて。タオルとか持ってる?」
「はい、たしかカバンにあるはず」
タオルで濡れたブレザーや髪を拭くさゆか。
「雨に濡れた女子高生とかそそるなぁ」
「もぉー、エロじじいみたいなこと言わないでください」
「あはは、冗談冗談。卒業するまでキス以上しないから安心して」
手が止まるさゆか。
(え。今、さらっと卒業まで抱かない宣言された?聞き間違い…じゃない)
「あ、止んでる。通り雨だったみたいだね」
「…。」
「さゆか?」
「え、あ、よかった。気を取り直して、買い物行きましょう」


 「高校生は抱かない宣言されたんですけどー!!」
昼休み、麻由と友美に訴えかける。
「それぞれのペースでいいじゃん」
「おうちデートしないんだっけ?」
「たまにするよ。イチャイチャしたりもするの!でもね、イチャイチャで終わってたのよ!その謎が解明されたけども!」
「いいじゃん、大事にされてて。すぐがっつかない感じが大人ー」
「うんうん。まぁでも、高校の間に処女捨てときたいわなぁ」
「…」
気まずそうに黙るさゆか。
「…え!もしかして経験済み!?」

 放課後、中庭掃除中のさゆかと菅。
「ねぇ、菅って女の子抱いたことある?」
「は?いきなりなんだよ」
「ま、ないか。菅だもんね」
「聞いときながら失礼なやつだな」
「彼女できたら抱きたいって思う?」
「俺は学校でなんでこんな大胆な質問されてるんだよ。…そりゃあ、俺だって健全な男子だし、彼女できたら抱きたいでしょ。もちろん、相手が嫌ならしないけどさ」
「まぁ、好きじゃなくても抱ける人もいるもんね」
「俺はそんなことしないけど!」
(好きでも抱けて、好きじゃなくても抱ける。大事にされてるのはわかるけど、だけど…)

 数日後。デートの帰り、家の近くまで送ってもらっていたさゆか。
「さゆ?」
振り返ると、パーカーを着た男子が立っていた。
「…りっくん?一瞬わかんなかった。めっちゃ背伸びてるじゃん」
男子は一優のほうをじっと見る。
「あ、紹介するね。今、付き合いしてる滝一優さん。それからこっちは、幼馴染の八雲律です」
「初めまして、滝です」
笑顔の一優に対し、無愛想な態度で軽く会釈をした律。
「今日から泊まるから」
「え!?そうなの!?部屋片付けてないよー」
「鍵まだ受け取ってなくてさ。おばさん待つために駅にいたんだけど、急きょ残業になったから玄関でさゆを待ってろって言われて、家に向かってた」
(お母さん、なんであたしに言わないのよー。玄関で待たせる無責任さ…)
「一優さん、すみません。今日はここで大丈夫です。また連絡します」
「あ、うん。気をつけて帰ってね」
 少し歩き、後ろを振り向いた一優。親しげに話すさゆかと律を見て複雑な表情をする。

 テーブルに向かい合い、夜ご飯を食べながら律が言う。
「なんであんなザ・モテますみたいなやつが、さゆなんかと付き合ってんの」
「なんかってなによ。まぁ、奇跡だけどさ」
「あの人いくつ?」
「…28」
「まじかよ!?絶対弄ばれてるだけだろ」
「そんなことないよ!大切にしてくれてるよ…」
「ふーん。付き合ってどれくらいなの?」
「半年ぐらい」
「へぇ。そういや、明日墓参り行きたいんだけど、さゆも行ける?」
「うん、行けるよ」


 数日後。夜、部屋で宿題をしていると着信が鳴った。一優の名前が表示されている。
(向こうから電話なんて珍しいな)
「はい」
「今、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。電話、珍しいですね」
「なんか声が聞きたくなって」
(そんなことを推しに言われる日が来るなんて…感涙!!)
 他愛ないことを話していると
「そういえば、律くんまだ泊まってるの?」
「はい。こっちにいる友達と遊んだり、好きに過ごしてますよ」
「へぇ。律くんって彼女とかいないの?」
「今はどうなんだろう。あんなに無愛想なのに、昔からモテてはいたし、彼女もいたりしたんですよ。バレンタインに漫画みたいにチョコどっさり持って帰った時もあって。でも、そのチョコを食べずに私や親にあげてたんですよね」
「人から貰ったもの食べられないタイプなのかな」
「うーん、でも私があげたチョコは、文句言いながら食べてたので、そういうわけじゃないと思います」
「そうなんだ…。いつからの幼なじみなんだっけ?」
「幼稚園からです。親同士も仲良くて、よく一緒に旅行行ったりしたんですよ。中学に上がるタイミングでりっくんが引っ越してからは、夏休みや春休みにうちに泊まりに来るようになって。去年は、受験生だったので来なかったんですけど。お互いひとりっ子なので、弟みたいな感じです」
「あ、年下なんだ」
「あの身長で、あの態度だと年下っぽくないですよね。一個下です。無愛想で口も悪いんですけど、なんだかんだ優しくて」
昔の律を思い出し、優しいトーンで話すさゆか。そんなさゆかの声に、電話の向こうで何か感じる一優。
「さゆ〜、シャンプーの詰替ってどこー?」
ガチャ。
話しながら律が部屋のドアを開ける。
「せっかくだし、久々に一緒に風呂入るか?あ、電話中か」
「もぉー!寝る時以外、勝手に入って来ないでよ!すみません、切りますね」
急いで電話を切ったさゆか。
 2人のやりとりを電話越しに聞き、黙る一優。
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