貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜


 やはり、彼も詩乃のことを認識していたようだ。だからこそ、助けてくれたのだろう。

 その目は、詩乃を通り越して彼女の背後を見ている。

 彼も、この本屋に用があったらしい。

「あ、すみません」

 詩乃がぴょこんと脇に退くと、真壁は軽く会釈して前進した。

 さっき見ていた、回転棚に触れる。そして、迷わず一冊の本を手に取った。

「本、お好きなんですか?」

「はい。これは、知り合いが出した本で。読んでおこうかと」

 低いがよく通る声で、真壁が返事をする。

(やっぱり、ノリがいい。わたしに興味があるわけではないけど、無口なだけで無愛想ではないんだ)

 ついクセで、話した相手の分析をしてしまう。

「お知り合いが? すごいですね」

 詩乃が興味深げに言うと、真壁は少し本を傾けて、表紙を見せてくれた。

「”夜明けの詩”……まあ、すてき。詩集ですね」

 東の空にほのぼのと昇る朝陽の絵に、細い飾り文字でタイトルがあしらわれている。

 堅そうな印象を与える彼が選ぶのには、似つかわしくない本だった。

 知り合いが出した本だというので、その縁で手に取ったのだろうが。
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