貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
「そうだ! お礼に、この本のお会計、任せてください」
「お礼……?」
真壁は、なんのことか分からない、といった風にわずかに首を傾げる。
「ああ。いえ、お礼なんて必要ないですよ」
「そんなことないですよ! ほんとにありがたかったので、ぜひ」
詩乃が一所懸命お願いすると、真壁はあっさりと頷いた。
「そうですか? では、お言葉に甘えて」
彼から受け取った詩集を、手早く会計する。
ついでにささやかなラッピングをしてもらいながら、詩乃は心の中で呟いた。
(いいな〜この人! 本当にわたしに興味ない!)
真壁は、完全に下心のない男に特有の雰囲気をまとっていた。
わずかでも詩乃を女性として意識していれば、女性にモノの代金を払ってもらうのに抵抗を感じるだろう。
少なくとも、詩乃がこれまで接してきた男性は皆そうだった。
だが真壁は、全く気にする様子はない。はっきりいって、どっちでもいいのだろう。
正直、その方がさっぱりしていてありがたい。
決して恋愛したくないわけではないのだが、色恋以前に人として付き合えるのは嬉しいことだ。
「ありがとうございます」
詩乃から詩集を受け取って、真壁はていねいに頭を下げた。
愛想はないが、詩乃に悪印象を持っているわけではないらしい。