貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
店先に出ると、少しずつ夕闇が迫っていた。
「どうしましたか」
詩乃が辺りをきょろきょろ見回しているのを見て、真壁が声をかける。
「いやぁ、それが……さっきの人が、まだウロウロしてたら怖いなと思って」
すっかり忘れていた。万が一、さっきのナンパ男がまだ近くにいたとすれば。
一人になれば、「旦那さま」はどうしたんだ?と、怪しまれるだろう。
「厚かましいお願いなんですけど……」
詩乃が、言い淀みながらも口にする。
「さっきの人につけられてたら怖いので、良かったらうちまでついてきてくれませんか?」
ちらっと真壁の顔を伺うと、合点がいったような表情をしている。
「ああ、いいですよ。女性は大変ですね」
案の定、あっさりと快諾してくれる。
「ありがとうございます! このお礼は、いつか必ず」
「そんな必要はないですよ」
二人並んで、暗くなり始めた道を歩き始める。
駅前の道は、ほどほどに賑わっていた。