貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
「おうち、この近くなんですか?」
「はい。少し歩く距離ですが、あのスーパーは生鮮食品の鮮度がいいので」
「鮮度!? そんなこと、考えたこともなかった。新鮮なお肉やお魚って、どうやって見分けるんですか?」
「うーん……色艶……? とか、ですかね……自然と選んでいるので、改めて考えると言語化しにくいですが」
見た目に似合わず、真壁はやはりよく自炊をするようだった。
「そういえば、前、鰹節をじっと見てませんでしたか?」
「ええ。煮物やうどんは、鰹と昆布で出汁を取ると格段に美味しいので」
「えっ、お出汁も手作り? すごい。凝ってるんですね」
「出汁は奥が深いので、家庭で出来る範囲の味しか出せませんけどね」
冷静に語る真壁の横顔は、あくまで端正だ。
(クールな感じの人だな。でも、お料理が得意だなんて不思議)
真壁は、容姿が整っているだけでなく品がよい。どこか高貴な佇まいですらあった。
日々の食事を、使用人などに支度してもらっていたとしても違和感はない。
そして同時に、何事にもあまり頓着しない、ドライな印象も抱かせた。
何事にも好奇心が強く、根っから社交的な詩乃とは、かなり違うタイプかもしれない。