貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
道すがら、互いに簡単な自己紹介をした。
真壁は、日本有数のメガバンク、帝都銀行に勤めている。
開発部で、システムの構築や運用をやっているらしい。
詩乃もまた、自分の経歴を簡単に話した。
「ん……? ちょっと待ってください」
真壁が、ふと足を止める。もう既に、詩乃の住むアパートのすぐ近くまで来ていた。
「このままだと、私にあなたの住んでいるところが知られてしまいますよ」
ずっと表情の見えなかった真壁の声に、少し困ったような気配が滲む。
「知らない男について来られると困るからという話だったのに、今まさに知らない男があなたについてきています」
詩乃は、思わず声をあげて笑った。とぼけた言い回しが、こんな美形の男性から発せられているなんて。
「いいですよ、真壁さんは、わたしに言い寄る気、ないでしょ?」
「それもそうですね」
確かに、と頷く。このとき初めて、真壁が少しだけ頬を緩めた。
アパートに着いた頃には、もう日が沈みかけていた。
詩乃は丁寧に礼を言ったが、真壁は相変わらず何事もなかったかのように、淡々と去っていった。
「新しい街で、新しいお友達もできそう」
弾んだ気分で、住み始めたばかりの部屋に入る。
明日からの仕事も、より一層頑張れそうな気がした。