貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

春の嵐


「お風呂、先にもらいました〜」

 そっと脱衣所の戸が開いて、詩乃がちょこんと顔を出す。

 明人は、座椅子に腰を下ろしたまま声の方に振り向いた。

 詩乃が、肩にタオルをかけたまま、頬を上気させて出てくる。

 館内着である、くすんだ桜色の作務衣がよく似合っている。

 まだ乾ききっていない髪を、ゆるくまとめていた。

「ゆっくり出来ましたか?」

「うん。気持ちよかったよ〜! 明人くんも、入ってきなよ」

 まだほこほこと湯気の立ちそうなくらいに温まった詩乃は、ずいぶんリラックスしているように見える。

「そう、ですね」

 普段通りの様子の詩乃を見て、明人も幾分気持ちが和らいだ。

 居心地が悪いとまではいわないが、やはり多少は緊張する。

 なにしろ、詩乃への気持ちを自覚して初めて、こんなにも密接な一日を過ごしているのだから。

「では、失礼します」
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