貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

 立ち上がって、部屋の隅に置いた荷物の方へ向かう。

 男性用の作務衣も備えつけてあるから、持って行くのは替えの下着だけで十分だろう。

 ……下着だけを取り出すのも気が引けるので、旅行鞄ごと脱衣所に持って行こう。

 鞄を提げて浴室に向かおうとすると、詩乃は窓の外を気にしているようだった。

 雨が窓を叩き、激しい風が轟くように唸りを上げている。

 座椅子にちょこんと座ったまま、見上げるように暗い窓を見ていた。

「どうかしましたか?」

「ん。ううん、風、凄いなぁと思って」

 声が、少しだけ心細そうだ。雷が鳴らないか、怖がっているのかもしれない。

 明人は、なんと答えるか迷って一瞬口をつぐんだ。

「すぐに出てきますから。大丈夫ですよ」

「そう? ゆっくりしていいのに」

 そう答えながらも、詩乃は嬉しそうだ。

 ほっとしたような顔が、本当に可愛らしい。

 詩乃の様子が気になりながらも、明人は脱衣所に入って戸を閉めた。

 久しぶりに、一人きりになったような感覚に陥る。

 今朝からずっと、すぐそばに詩乃がいて、その姿をずっと見ていたからだ。
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