貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

 衣服を脱いで掛けながら、案外冷静でいられる自分に少し安心した。

 とにかく、今夜の安全が確保できてよかった。

 喫茶店にいるときに、宿を取る決断をしたのは正解だった。

 店を出ると、困った様子の観光客がちらほらいた。

 きっと、近くの宿泊施設はあっという間に埋まってしまっただろう。

 浴室の戸を開けると、湿った空気が肌を撫でる。

 広々とした、実に立派な檜風呂だ。木の香りが清々しい。

 浴槽も、床も、濡れてはいるが綺麗に清められている。

 お湯を溜めながら、立ったまま手早く頭と身体を洗った。

 勢いよく噴出するお湯が、あっという間に浴槽を満たしていく。

 そっと湯船に入ると、お湯の匂いが胸いっぱいに満ちた。

 足を伸ばし、湯船のふちに頭を乗せる。

 うんざりするほど背丈のある自分でも、のびのびと入浴出来る広さだ。

 しばらくの間、明人は何も考えずにじっと目を瞑ってお湯の温もりを堪能した。
< 159 / 223 >

この作品をシェア

pagetop