貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

「はい。小説を、事業として本腰を入れます」

 詩乃は、自然と笑みが溢れるのを感じた。

 まさか、明人がそんな思い切った決断をするなんて。

 でも、その方がずっといい。

 昔から彼が好きだった、小説を書いて暮らす生活。

 ただ気に入られたから、ただ命じられたから従う栄転より、ずっと明人は生き生きとしていられるに違いない。

「だからって……仕事辞めちゃうなんて」

 頬が緩むのを抑え切れない。

 生活に困りはしないとはいえ、収入は落ちてしまうだろう。輝かしいキャリアも棄てることになる。

 それでも明人は、自分と一緒にいることを選んでくれたのだ。

「もう……ばか。ばかなんだから」

 涙が溢れる。全身が、幸福に満ちていく。

 たまらず、ぎゅっと抱きついた。
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