貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
明人があまりにさらっと、なんでもなさそうに言うものだから。
「泊めてくださってありがとうございます。では、私は床で寝ます」
なんて言って、詩乃に指一本触れずに夜を明かしそうな雰囲気だ。
「さすがに、それはないと思うけど……」
布巾が乾いてカピカピになっているのにも気づかず、詩乃は上の空でテーブルを拭き続けた。
「いくらなんでも、なにもしないってことはないよね……?」
「なにを"しない"んですか?」
「ひゃっ!?」
突然うしろから声をかけられて、詩乃は飛び上がった。
風呂上がりの明人が、思ったより近くに来ていた。
まだ湿り気の残る髪は少し乱れて、風呂場で上気した頬には赤みが差している。
「え、あっ、いやー、えへへ……」
曖昧にごまかそうとすると、明人の目の奥に危険な光がちらりと宿るのを感じた。
「そうですか……『なにもしない』のが、お望みですか?」
ずいっと、明人が距離を詰める。
見上げるような長身の彼は詩乃のすぐそばにぴたりと寄り添って、うっすらと微笑みを浮かべていた。
「えっ、あの……き、聞いてたんだ……」