貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
頼みたいことが
「あ。早瀬さん」
二人が次に会ったのは、いつものスーパーでだった。
「ちょっとよろしいですか」
レジ横のお菓子を未練がましく眺めていた詩乃に、明人が声をかける。
「わあ! 真壁さん!」
ぱっと振り向いて、詩乃が弾けるような笑顔を見せる。
「会えて嬉しいです」
にこっと笑って、詩乃はなんの恥じらいもなく言った。
「そういえば、本を贈っていただいたお礼をしていなかったなと」
詩乃の率直な物言いに面食らいながらも、明人が静かに言う。
「えー? それは嬉しいな」
お礼を期待していたわけではないが、気持ちが嬉しい。
詩乃は、どこまでも素直だった。
「なにがいいですか? 遠慮なくおっしゃってください」
「いいですか? じゃあ、ぜひ頼みたいことが」
一瞬ためらうような素振りを見せてから、詩乃は勢いつけて口にした。
「手料理を……作って欲しいです……!」
ぜひに、と、一歩距離を詰める。