貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜


「うーん」

 詩乃が、慎重に言葉を選んで口を開いた。

「明人さんは……そこで、イキイキできるのかな」

「はい?」

 予想外の言葉に、明人が思わず聞き返す。

「いやあ、余計なこと言ってごめんね。せっかくの栄転なのに」

 詩乃は、なにやら考え込んでいる。

「でも、明人さんは全然嬉しそうじゃないからさ」

 遠慮がちに言うと、明人は驚いたような顔で、目を見開いていた。

 これまで、数多くの女性が明人の持つモノを褒め称えてきた。

 生まれ持った美貌、地位、能力。

 ある意味それらは、いつも他人から品定めされてきた。

 明人に憧れを募らせる人もいれば、「ハイスペ彼氏」を射止めようと必死になる人もいた。

 明人を鎧のように覆うそれらの表層を飛び越えて、明人の心の満足のありかを探そうとする女性は、これまでただの一人もいなかった。

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