貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜


「私は……」

 こんな会話のパターンは初めてで、返しに困ってしまう。

 それもまた、初めてのことだった。

「仕事は仕事なので。どこに行っても、適当に働きますよ」

 そうだ。楽しくなかろうが、仕事は仕事。

 とりあえず大きな会社に勤めていればメリットは多いし、幸いなことに適性もある。

 どこに転勤になっても、その場でやるべきことをこなすだけだ。

「仕事以外に、楽しみはありますしね」

 呟くように言うと、詩乃はぱっと顔を輝かせる。

「そうなんだ! なになに?」

 本当に、表情がくるくる変わる人だ。と、明人は思った。

 花びらの降り注ぐ小川が、風に流れに乗って水面の表情をどんどん変えていくようだ。

「それは、まだ秘密です」
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