貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
「おい、早瀬」
みんなで頭をひねっていると、背後から突然詩乃を呼ぶ声がした。
「はいっ」
反射的に振り向くと、そこにはデザイン部の小岩井がいた。
「共有フォルダ使った。ありがとう」
先日、小岩井から、デザイン部で使うファイルの整理を頼まれたのだった。
仏頂面だが、一応お礼を言いに来たようだ。
「いえいえ! また、ご要望があればおっしゃってください」
さっさと去っていく小岩井の背中を見送りながら振り返る。
部長と沙耶が、口をあんぐり開けていた。
「ちょっと部長! 聞きました?」
「お礼を言ったねぇ、あの小岩井君が」
「レアよ。SSRよ。あの小岩井が、素直にお礼するなんて」
「そ、そんなに珍しいんですか、小岩井さんのお礼」
二人の騒ぎように、詩乃が目をぱちくりさせる。
「珍しいなんてもんじゃないわ。同期の私でも聞いたことないのよ」
「早瀬クン、凄いな。あの小岩井君まで和ませちゃったねぇ」