貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜


「そうだ。あのね、またすっごくいいことあったんだ」

 二人とも、二杯目のお茶を飲み始めた頃だった。

 詩乃は、明人に伝えたいことがあったのを思い出した。

「この間、小岩井さんが差し入れくれたんだよ」

「ええと、デザイン部の。無愛想な」

 デザイン部の小岩井に突然仕事を頼まれたこと、後日また突然お礼を言われたことは、明人に既に話してあった。

 あの出来事が、今の職場にも会社にも受け入れられた証拠のようで嬉しかったことも。

「そう! 総務部にまで来てね、可愛いクッキー缶をくれたの」

 無愛想で、当たりの強い性格の小岩井。

 そんな人が、わざわざ詩乃のいる総務部まで差し入れを届けてくれたのだ。

「ただの差し入れじゃないんだよ。小岩井さん、前までは差し入れなんて一度もしたことなかったんだから!」

 純粋に、詩乃は嬉しくてたまらなかった。

 自分が関わり始めてから、人嫌いだった彼が柔和になりつつある。

 それが自分のおかげだとは思わないが、それでも嬉しい。

 シンプルに、詩乃は人間全般が好きなのだ。

「差し入れを……」

 一方の明人は、なぜか胸の中にチリッと雑音が走るような気がした。

「詩乃さん個人にではなく、部署のみなさんに?」

 小岩井という、よく知らない男性。

 その人が、詩乃に女性好みの差し入れを渡したのだろうか。

「そうだよ。みんな驚いてた! それが、どうかしたの?」

 明人は、慌てて平静を装った。

「いえ、なにも」

 面白くないような気がしたのは、きっと気のせいだ。

 自分に言い聞かせながら、詩乃の顔をチラリと見る。

 詩乃はといえば、明人が僅かに心を乱したことに、気づいた様子はない。

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