貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜

「素敵な彼」がいるので


 帰り道に、小さな本屋さんを発見した。詩乃が、足を止める。

 駅の近くで、帰宅中の人も多い。賑やかな通りに、こぢんまりとした佇まいだ。

(雑貨とかも置いてるようなお店みたい。可愛い雑貨があれば、買おうかな)

 節約は大事だが、気分を上げることも重要だ。

 よく吟味して、気に入った素敵な品物があれば買っちゃおう。と、詩乃は決めた。

 店先には、回転する飾り棚が置いてあった。

 趣味のよさそうな本と、窓辺に飾るような小さな置き物が並んでいる。

(この棚、見てみよう)

 店の入り口に近づいた、そのとき。

「お姉さん、いま一人?お茶しませんか?」

 突然、いかにもチャラそうな男が、のぞき込むように詩乃の行く手を塞いだ。

「えっ」

「いやーマジで可愛いなと思って! お姉さんモテるでしょ? モテないわけないっすよね。誰かに取られる前に、オレが狙っちゃおうかな〜と思って〜」

 チャラ男は、ジロジロと詩乃の全身を眺め回しながらペラペラしゃべっている。

「はあ」

 正直「またか」と、思う。詩乃は、こっそりため息をついた。

「もう仕事帰りっすよね? 飲み行きましょうよ! 奢るからさ〜。この辺、けっこうイイ飲み屋多いんだよ。奢りならいいでしょ?」

 曖昧な愛想笑いを浮かべて、詩乃は否定も肯定もせずに会釈した。

 このタイプは、ていねいに断っても冷たくしてもいいことがない。

 ナンパしてくる、それもタメ口でペラペラしゃべり続ける男に、あまり話は通じない。

 断ると、手のひらを返して罵られることも少なくない。

 かといって曖昧にかわしていると、どこまでもついて来る可能性もある。

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