貴女だけが、私を愚かな男にした 〜硬派な彼の秘めた熱情〜
「そういうわけで……このまま転勤していいのか、迷い始めています」
明人は歯切れ悪く言ったきり、口をつぐんでしまった。
「そっ……か」
転勤。思えば、初めて彼がこの部屋を訪れた日から、分かっていたことだ。
まだ、実感は湧かない。この部屋に、明人と一緒に過ごした時間の形跡は積もりすぎていた。
経営企画部のある東京は、この地方都市から新幹線でも三時間かかる。
今の二人の距離にとっては、遠すぎる。
ふらっと集まって、その日あるものでご飯を作る平日の夕方も。
食材を買い出しして、少し手の込んだ料理を作る土日の昼も。
全部、なくなってしまう。
「……あれ?」
詩乃は、ふと気がついて思考が切り替わった。