ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 当初の計画では、父親には田舎に引っ込んでもらって、ひっそりと余生を送ってもらうくらいのつもりでいた。
 しかし蓋を開けたらこの有様だ。

「それにしてもアンドレア様の演技はすばらしかったです。マリーは本物のローデリカ様がいらっしゃるのかと思いましたよ」

 感嘆したように言うマリーに、アンドレアは返事に困ってしまった。
 完全にあれはアンドレアの意思ではなかった。
 操られていたと表現するのが最もふさわしく思える。
 だが言葉で上手く表現ができない。
 ローデリカのように振る舞っていた間のことは、ひどく記憶が曖昧であまり思い出せなくなっていた。

(本当にお母様が力を貸してくれたのかしら……)

 だとしたら、今ごろ父の心は母とともにいるのかもしれない。
 そんなことを考えながら、アンドレアはシュミット家へと帰りついた。

「アーンードーレーアー」
「な、なによ、エドガー」

 仁王立ちして待っていたエドガーに、アンドレアはいつになく及び腰になった。

「俺に黙って危ないことするとは一体どういう了見だ!」
「だってエドガーに言ったら反対するじゃない」
「当り前だっ」

 怒鳴りながら、エドガーはアンドレアを力いっぱい抱きしめた。

「頼むから俺に守らせてくれ」
「……相談しなかったことは悪かったわ」

 あやすようにエドガーの背中をぽんぽんと叩く。
 しばらくするとエドガーは、アンドレアの耳元で諦めのため息を大きく吐いた。

「次にやってみろ。一日キス百回の刑に処すからな」
「何なのよ、それ」

 可笑しくて思わずぷっと吹き出した。
 そこを噛みつくように口づけられる。

「俺は本気だ」

 馬鹿真面目に言われ、今度は呆れ顔を返した。

 今後、ケラー侯爵の後ろ盾を失ったシュナイダー家が、急速に傾くことになる。
 アンドレアが手を下さなくとも、それは運命の濁流となって止まることは決してなかった。

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