ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 神妙に頷いたマリーは、壁の蓋をそうっと開いた。
 空気の流れを感じた直後、何か籠ったような振動が伝わってくる。

「……ねぇ……ポール……やっぱりお姉さ……を追……出す……ことはでき……いの……?」

 穴の奥から聞こえてきた声に、マリーは思わず悲鳴を上げそうになった。
 しかし(あるじ)の指示を思い出し、慌てて両手で口を塞ぐ。間一髪のところで出かかった言葉をマリーはどうにか飲み込んだ。

「今何か音がしなかったか?」
「そう? 別に何も聞こえなかったけど……」

 反響して少し聞き取りづらいが、次第に耳が慣れてくる。
 聞き覚えのある声の(ぬし)たちは、どう考えてもポールとライラだ。
 息を殺して固まっているマリーをよそに、アンドレアは冷静なまま静かに耳をそばだてた。

「そんなことよりもお姉様よ! 今日もライラに醜く嫉妬してきたりして、みっともないったらありゃしないわ!」
「好きに言わせておけばいい」
「だけどライラにライバル心燃やして、ホントすごかったのよ?」

 捻じ曲げられた事実に、呆れるよりほかはない。
 この禁断の蓋を開けたことをアンドレアは後悔し始めていた。
 だが何も情報が得られないままここでやめてしまったら、やるだけ馬鹿だったという虚しい結果しか残らない。

「ねぇ、ライラのお願いでもどうしても駄目なの?」
「言っただろう? アンドレアを追い出すと、領地経営で俺が直接指示を出さなくてはならなくなる。いいのか? そうなったらライラとの時間がまったく取れなくなってしまうんだぞ?」
「そんな絶対に嫌!」
「だったらこれまで通りアンドレアを矢面に立たせておけばいい。何、あいつの取柄はあの頭だけだ。俺の指示通り動く便利な道具と思えばいいじゃないか」

(ポールが執務で指示を出したことなんて、これまで一度もないじゃない)

 好き勝手を言っているふたりに、アンドレアの顔が氷の彫像のように冷たくなった。
 その横でマリーが口を開けたり閉じたり顔を青くしたり赤くしたりを繰り返している。

「アンドレアが収益を上げれば、ライラに宝石でもドレスでも何でも好きなものを買ってやれるぞ?」
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