ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
「そうね! お姉様なんか馬車馬のように働かせておけばいいんだわ。どうせポールの気を引くためには、お姉様はそれしかできないんだもの!」

(どうして話がポールを取り合っている前提なのよ……)

 あまりの屈辱に眩暈がしてくる。
 それにしても、口の巧さはポールの方が上手(うわて)のようだ。
 これまでのライラの常軌を逸した言動は、ポールの口車に乗せられてきた結果なのだろう。
 アンドレアにはそれが容易に想像できた。

「……ねぇ、お姉様とは本当に一度も寝てないのよね?」
「当り前だろう? あんな年増(としま)女相手にその気になどなれるものか」
「そうよね! お姉様みたいなオバさんよりも、ライラの方が若くて可愛くって魅力的だものね!」
「ああ、まったくその通りだ。俺が愛しているのは、ライラ……お前だけだ」
「ポール……!」

 リップ音が響き、次いで寝台のスプリングが軋む音が重なった。
 もういいわ、というようにアンドレアが片手を上げる。
 目にも止まらぬ素早い動作で、マリーは壁の蓋を閉めにかかった。
 閉じた蓋に手を置いたまま、マリーが息荒く肩を上下させている。
 その瞳からはぼたぼたと、大粒の涙がこぼれ出していた。

「嫌なものを聞かせてしまったわね」
「アンドレア様のせいではありませんっ」

 アンドレアの気持ちを代弁するようにマリーはひどく憤っている。

(こうなると分かっていたから使いたくなかったのよね……)

 アンドレアが今いる部屋は、シュナイダー公爵夫人が代々使ってきた寝室だ。
 先ほどの聞き耳の穴は、夫の浮気を暴くために何代か前の女性が秘密裏に設置したものらしい。

「その絵を戻したら、マリーはもう下がっていいわ」
「ですが……」
「わたくしは大丈夫よ。でももう限界だわ。お爺様に手紙を書くからひとりにしてちょうだい」

 さすがに手をこまねいて場合ではなさそうだ。
 今やれることをやっておかないと、この先後悔しか待っていない気がしてならなかった。

 重いため息とともに、アンドレアはひとり文机へと向かった。

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