ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 言われた通り扉を閉めると、エリーゼはわざとらしく大声で話し出した。

「おむつは汚れてないし、やっぱりミルクかしら? はいはい、今お腹いっぱい飲ませてあげるわね」

 なんだか扉の向こうに聞かせているようだ。
 アンドレアが小首をかしげていると、今度は小声でエリーゼが耳打ちしてきた。

「悪いけどこの子にミルクをあげたいから、向こうに行っててもらえる?」
「分かったわ」

 いくら仲がいいとはいえ、授乳中の姿は見られたくはないだろう。
 元いた部屋に戻ろうとすると、エリーゼはなぜかそれを止めてきた。

「そっちではなく、あっちで待っていて」

 再び小声で言って、さらに奥にあった扉を指し示す。
 不思議に思いつつも、アンドレアは素直にそれに従い奥へと向かった。

(あの侍女がいるから、気を遣ってくれたのかしら)

 エリーゼのやさしさにほっこりしながら、アンドレアはさらに隣にあった続き部屋へと移動した。

「……――っ!」

 誰もいないと思っていた室内に人影を見つけ、アンドレアは悲鳴を上げそうになった。
 その何者かに素早く口を塞がれる。
 口元を覆う骨ばった大きな手に、アンドレアは心臓が凍りついた。

「しっ、俺だ、アンドレア」

(この声は、エドガー!?)

 心臓の鼓動が鳴りやまない中、アンドレアは自分を押さえ抑え込んでいる男の顔を恐る恐る仰ぎ見た。

「もう叫ぶなよ?」

 こくこくと頷くと、エドガーはやっとアンドレアの顔から手を離した。

「エドガー……どうしてこんな場所に……」
「監視されているんだろう? 時間もないことだ。手短にいこうぜ?」

 飄々と言ったエドガーに、アンドレアは追いつかない思考のまま頷き返した。
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