ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 彼らしくない表情は、これまで見たことのない寂しげなものだった。

「本当に欲しいものは手に入らなかった……だから、もう何でもいいんだ……」

 自身の手のひらを見つめ、エドガーはそっと瞳を伏せた。

(エドガーにそんな女性(ひと)がいただなんて……)

 だからアンドレアとのときも、さほどダメージを受けなかったのだろうか。
 元から結ばれない誰かに想いを寄せていたのなら、それも納得がいくように思った。

(身分違いの恋でもしていたのかしら……?)

 エドガーの想い人は、既婚者か、または使用人ということもあり得るだろう。

「そういうわけで、俺は特に被害は被っていないんだ」
「今のところは、でしょう?」
「そうだが、差し当たって対処が必要なのはアンドレアの方だろう?」

 そうは言っても取れる手立てがない。
 こうしてこそこそと、エリーゼやエドガーに愚痴を聞いてもらうのがせいぜいだ。
 そのときエリーゼが扉を叩いて来た。

「そろそろ戻ってきて。見張りの侍女がしびれを切らしてるみたい」

(時間切れね……)

 結局何も進展を見込めそうにない。落胆でため息をついた。
 これからライラのいるシュナイダー家に帰るのだと思うと気が重くなってくる。

「アンドレア」

 戻ろうとして、二の腕を掴まれる。
 耳元に唇を寄せ、エドガーは早口で囁いた。

「何かあったらひとまずエリーゼに言え。あとは俺が何とかする」
「どうしてわたくし相手にそこまで親身になるのよ?」

 ライラのことをどうでもいいと言うのなら、アンドレアの事情も放っておいてもいいだろうに。

「それは……」

 目を泳がせ、エドガーは一瞬口ごもる。

「幼馴染のよしみだ」

 ぶっきらぼうに言って、エドガーはアンドレアから手を離した。

< 38 / 138 >

この作品をシェア

pagetop