ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
「……それでは、奥様。また次の定期健診にて」
「ええ、また頼むわね」

 何事もなかったように、医師は頭を下げる。
 出て行く背を見送りながら、侍女のマリーが気づかわし気に言った。

「あの医師に口止めをしなくてもよろしかったのですか?」
「彼も口は(わざわい)の元だと分かっているわ」

 公爵家のお抱え医師ともなれば、口が軽くては生き残れまい。

(それよりもポールだわ……分かってはいたけれど、まだまだ諦めてくれないようね)

 ライラは一度ケラー家に帰らされている。
 シュナイダー家に戻ってきたら、すぐにでもアンドレアの元に来るだろうと思うと気が重くなる。
 先が思いやられて、アンドレアは大きく息をついた。


 ♱ ♱ ♱


 すこしだけ果物を口して、アンドレアはすぐに食べる手を止めた。

「アンドレア様、もうよろしいのですか?」
「ええ、悪阻(つわり)がこんなにもつらいだなんて……思っていた以上だわ」

 胃のむかつきが気になって、言いながらもうひと口だけ果実をかじる。
 ほんの一時楽に感じるが、食べていてもいなくてもこの不快感が完全に消えることはなかった。

「奥様、食後のお茶をお持ちいたしました」

 例の見張りの侍女が、ティーセットが乗ったワゴンを押してくる。

「このお茶は? あまりない香りね」
「アンドレア様の懐妊祝いとして、国王様から贈られたものと聞いております」
「お爺様から?」

 多くの貴族から祝いの品が続々と届いている。
 ひとつひとつにお礼の手紙を送っているが、祖父からそんなものが届いていたとは聞いていなかった。
 妊娠が分かってから、アンドレアの口にするものはすべて毒見がなされている。
 ここまで運ばれてきたということは、その関門を潜り抜けているはずだ。

「なんでも東洋の茶だとかで……」
「まぁ、東洋の?」

 祖父がアンドレアのために珍しいものを取り寄せてくれたのだろうか?
 カップの(ふち)に鼻を寄せ、アンドレアはもう一度近くで香りを確かめた。

「どこかフルーティーな香りもするわね」
「他の葉とブレンドされているのかもですね」

 マリーも興味津々だ。
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