ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 言いにくそうに顔を見合わせる使用人に、アンドレアは眉根を寄せた。

「いいから言ってみなさい」
「実は旦那様が……」
「ポールが? どうしたというの?」
「仕上げた書類に不備があるとおっしゃって、採決のサインをしてくださらないのです……」
「不備が? その書類ね? わたくしに見せてみて」

 それぞれが持ち寄ったものに目を通していくが、どれも不備らしい不備は見当たらない。

「そうね……強いて言えば、ここはもう少し案を煮詰めてもいいかもしれないわ」

 しかしどれも些細なことだ。
 何度見返しても、文句なしに合格を出すレベルに仕上がっている。

(もしかして……わたくしがこの前ポールにああ言ったから……?)

 ――いつもポールは内容の確認もせずに書類にサインをしているのか。
 嫌味全開でそう聞いたことを思い出す。

(だから目を通した上で、サインはできないと突っぱねているというわけ?)

 子供じみた仕返しに、アンドレアは眩暈がしてきた。
 どうせ書かれた内容など、ポールはひとつも理解していまい。
 その証拠に、どこをどう直せばいいのかなど、明確な指示はひとつもされていなかった。

「旦那様にサインをいただけず、この案件以外にも多くの事案が滞っておりまして……」
「もうすでに、領政に影響が出始めております」

 身重のアンドレアを頼らないよう、ギリギリまで自分たちで対処しようとしていたのだ。
 そのことが伺えて、仕方なくアンドレアはだるい体で立ち上がった。

「分かりました。この件はわたくしがなんとかします」

 引き金を引いたのはアンドレアだ。
 自分が一言物申さない限り、ポールが自分の愚かさに気づくことはないだろう。
 領地経営に不備が生じれば、それはそのままポールへの評価に直結してくる。
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