ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
(くだらないプライドのために、自分で自分の首を絞めているだけなのに……)

 こんな簡単なことすら理解できないポールが、呆れを通りこしてむしろ哀れに思えてきた。
 その馬鹿さ加減を、これからわざわざ教えに行かなければならない。
 それを思うと気が重い。
 ポールが再び自尊心を傷つけられたと、息まいて来るのが目に見えるようだ。

「いいこと? 次にポールに書類を持って行ったときには、必ずこう言いなさい。旦那様の的確な指摘のお陰で、さらに良いものに仕上がりました、と」

 見え見えのおだても、ポールのような人間には十分すぎるほどの効果があるはずだ。
 なんなら書類に修正をかけずとも、上機嫌でサインをするに違いない。

 二度とこんな茶番が起きないよう、アンドレアは使用人たちに念入りに釘を刺した。


 ♱ ♱ ♱


 その後、しばらく平穏に時は過ぎていた。
 お腹の子も順調で、アンドレアの体型少しずつ変わり始めている。

(この体の中でエドガーの子が育っているのね……)

 そう思うと、悪阻の症状すら愛おしく感じられた。
 ゆったりと過ごしながらも、アンドレアは気分が良いときにまとめて領地の仕事をチェックするようにしていた。
 それでもほとんど口を出すことはしてない。ある程度の失敗は想定の範囲内だ。
 アンドレアの下で働く者たちは、誰もが失敗から学び、同じことを繰り返さないだけの優秀さを持ち合わせていた。
 そのアンドレアの信頼に、皆は結果という形で応えてくれている。

「あら、これはどういうこと……?」

 上手くいきかけていた事業が、急に方向転換を余儀なくされている。
 そんな案件がいくつか見られて、アンドレアは担当の者たちを呼び寄せた。

「それが思わない横槍が入りまして……」
「横槍が? 誰かに邪魔立てされたということ?」
< 70 / 138 >

この作品をシェア

pagetop