ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 失望のあまり盛大なため息をつきたくなる。
 だがアンドレアは公爵夫人だ。立場もあって、そうすることを自分に許すことはできなかった。

「いいじゃないか。俺がライラと踊っている間、ケラー侯爵はアンドレアと踊るといい。久しぶりに親子でゆっくりと話もしたいだろう?」

 もっともらしいことを言うと、ポールは得意げな顔のライラを連れてさっさと行ってしまった。
 悪知恵だけは良く働くポールのことだ。変な噂が立ったとしても、義兄と義妹ということで片付けるつもりでいるに違いない。
 取り残されたアンドレアは、今度こそ真っ直ぐにケラー侯爵の顔を見た。

「お父様。少しお話があります」

 冷たく言って歩き出す。
 ケラー侯爵も黙ってアンドレアのあとをついて来た。さすがに後ろめたいことをしている自覚はあるようだ。
 ふたりきりになれる休憩室に向かう。
 あとから入ったケラー侯爵が扉を閉めるなり、アンドレアは話を切り出した。

「お父様、これは一体どういうおつも……」
「アンドレア、(こら)えてくれ!」

 勢いよく頭を下げられて、アンドレアは一瞬言葉を詰まらせた。

「そんなわけには参りませんわ! わたくしにだってプライドがあります!」
「それでもだっ」

 怒鳴り返されて、今度こそアンドレアは口をつぐんだ。
 これほど平静を欠いた父親をアンドレアは今まで見たことがなかった。

「シュナイダー家には恩義がある。これからもポール様を後ろから支えるのがお前の役目だ。いいな?」
「そんな……」

 確かにケラー侯爵家が財政難に陥ったときに、先代のシュナイダー公爵が多大な援助をしてくれた過去があった。そのことはアンドレアも知っている。
 ポールの父親である先代シュナイダー公爵は、アンドレアの母の二番目の兄だった。
 ふたりは仲のいい兄妹で、シュナイダー家に遊びに行っては、アンドレアもやさしくしてもらった思い出がある。

 だからシュナイダー公爵が急逝したとき、アンドレアはポールの元に嫁ぐことを了承した。
 当時アンドレアには別の婚約者がいて、その彼に嫁ぐ直前のことだった。
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