ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 ライラがアンドレアの懐妊を向こうで知るよりも、今のうちに知恵を授けておく方が賢明だろうか。

(よし、それがいい)

 ぼんくらなポール・シュナイダーも実に扱いやすい男だ。

(せいぜい、俺の思惑通り動いてくれよ)

 急逝してくれた先代シュナイダー公爵には感謝するしかない。
 そうでなければこの野望を抱くこともなかった。

 アンドレアにエドガー・シュミット。ふたりの存在だけが懸念材料だが、今のところこの計画は順調と言ってよかった。
 自分は一侯爵の立場に甘んじて良い男ではない。

(そうだ。俺はもっと上へ行くべき男だ)

 (たぎ)る野望を胸に、ケラー侯爵はライラを再びシュナイダー家に送り込んだ。


 ♱ ♱ ♱


 ケラー侯爵家からライラがシュナイダー家に戻ってきた。
 見張りの侍女――ヘレナの情報に、アンドレアは胸の奥がぎゅっと締めつけられるのが分かった。
 ライラの名を耳にしただけで、条件反射のように体が反応してしまう。
 そんな自分がとても嫌だった。

(大丈夫よ……今はわたくしに()があるわ)

 祖父の力も借りられて、アンドレアは屋敷内でも厳重に騎士に守られている。
 今のシュナイダー家を、ライラが我が物顔で歩く方が却って難しいだろう。
 多くの使用人たちも、アンドレアの懐妊に心からほっとしているようだ。
 それくらいライラの存在は異常だったということだ。

(騎士たちがいる手前、ライラも直接突撃してきたりはしてこないはず……)

 その分、どんな陰湿な手で嫌がらせをしてくるのか。
 それだけが気がかりに思えた。

(ポールとライラの会話など聞きたくないけれど……)

 今はそんなことも言っていられない。
 その夜アンドレアは、聞き耳の穴の蓋を久々に開けることにした。
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