ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 痛いところを突かれ、アンドレアは心が(くじ)けそうになった。

(負けては駄目よ、アンドレア)

 大切なものを守るため、最後まで戦い抜くとあの日この胸に誓った。
 自分は常識が一切通じない怪物を相手にしているのだ。
 正攻法などに拘っている場合ではない。でないとこちらが先に食い潰されてしまうだろう。

(無事にこの子が生まれてさえくれれば……)

 男でも、女でも、ポールの子を産んだという実績さえ作ることができれば、シュナイダー家からライラを追い出すこともできる。
 少なくともアンドレアの正妻としての矜持は保たれ、この苦境は終焉をみせるはずだ。

(だからそれまでの辛抱よ)

 祖父に対して良心の呵責を感じていては、アンドレアはこの先に進めない。
 あと少しですべては果たされる。
 この復讐はエドガーの悲願でもあるのだから――。
 自分にそう言い聞かせ、アンドレアはさらに耳をそばだてた。

「どうあってもお姉様の子を堕ろすことはできないの?」
「忌々しいことにな。皮肉にもお爺様が派遣した騎士に阻まれるとは……」
「いっそ国王に言ってしまいましょうよ。お姉様の腹の子はどこの馬の骨とも知れない男の子供だって」
「そ、それは駄目だ」
「どうして?」
「と、とにかくそれだけは駄目だ!」

 懐妊を知らせる公文書を、自らサインして国王に送ったのだ。
 アンドレアが不義を働いたという証拠がない限り、今さら間違いだったと撤回できるはずもない。

「もういいわよ!」

 ライラが不満そうに言ったあと、何やら紙がこすれる音がした。

「これ、お父様からの手紙! ポールに読むようにって!」

 便箋を開くような音が耳に届く。
 しばらくの後、ポールの気味の悪い笑い声が聞こえてきた。

「くく……くくくっ、その手が……その手があったか!」
「何? なんて書いてあったの?」
「ライラ! 俺の子を産め! 産んだ後に、アンドレアの子供と()げ替えてしまえばいい!」
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