ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 そうだ、あれは王城へ見舞いに行ったとき、病床に就く祖父の寝室でのことだ。
 やせ細った祖父。天蓋の中の籠った臭い。
 そして虚空を見つめた祖父は、一度もアンドレアの顔を見ようとしなかった。

(もしかしてお爺様は――)

 確かめに行かなくてはならない。
 アンドレアはそんな衝動に駆られていた。

(もし本当にそうだとしたら……すべてが上手く解決できるかもしれない)

 やっと見つけた糸口だ。
 この身重の体がまだ動けるうちに、もう一度祖父に会いに行かなければ――。

 翌日、アンドレアはすぐに動き出した。
 祖父へ見舞いに行きたい旨の(ふみ)を書き、思いのほか早く了承の手紙を受け取った。
 今回ポールはついて来るとは言わず、アンドレアひとりを快く送り出した。

(最近ポールはわたくしの妊娠を認めたふりをしているから、きっと心配はいらないと思ったのでしょうね)

 ライラが妊娠した件もアンドレアは知らないことになっている。
 すでに祖父が送り込んだ王城騎士たちに守られているため、これ以上アンドレアが祖父に泣きつくことはないとポールは踏んだのだろう。

 揺られる馬車の中で、アンドレアはひとり物思いに(ふけ)っていた。
 もしもアンドレアの考えに間違えがなかったら、今生で祖父に会えるのはこれが最後になるかもしれない。
 期待と不安を胸に、アンドレアは祖父の待つ王城へと向かった。

「待っていたぞ、アンドレア」

 降ろされた天蓋の奥からくぐもった声がする。

「もっと近くへ。お前の顔をよく見せてくれ」

 言われるまま、天蓋をそっとまくりあげる。
 あの日感じた違和感の正体を求め、アンドレアは間近で祖父の顔を覗き込んだ。

(やっぱりお爺様は――)

 疑問が確信に変わったそのとき。
 狂い切っていた運命の歯車は、かっちりと噛み合い何もかもがうまく回り始めたのだった。

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