ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
「一度この屋敷の間取りを足で把握しておきたかった。見取り図だけでは不安が残るからな」

 エドガーはアンドレア脱出の実行部隊担当だ。
 これ以上危険なことに巻き込みたくはなかったが、人を使うとなると情報漏洩のリスクも高くなる。

「そういうことなら……」

 納得しかけたとき、エドガーの手がアンドレアの腹にそっと当てられた。

「なっ」
「ここにいるんだな……」

 目を細め、エドガーは感慨深そうに呟いた。

「駄目よ、エドガー。誰かに見られでもしたら……!」

 一介の護衛が身重の公爵夫人の腹を撫でるなど、誰が見ても異常なことだ。
 エドガーの手首を掴んでどけさせようとして、アンドレアは逆にエドガーに引き寄せられた。
 お腹に負担にならない程度に、ぎゅっと腕に閉じ込められる。

「……どうしても顔が見たかった」

 耳元で聞くエドガーの声に、あの日の逢瀬の熱が蘇る。
 かっと顔に熱が集まるも、アンドレアは理性でそれを振り払った。

「だ、駄目だったら」

 今エドガーとの関係が知られてしまったら、アンドレアの計画は失敗に終わってしまう。
 肩を押してつっぱねると、エドガーはすんなり体を離した。
 片膝をついたまま、名残惜しそうに上目遣いでじっと見つめてくる。

「アンドレアに忠誠の誓いを」

 そう言って、エドガーはアンドレアの指先にそっと口づけを落とした。
 赤くなって動けないでいるアンドレアを見たエドガーは、ふっと笑みを残してから部屋を出て行った。
 ほどなくしてエリーゼが何食わぬ顔で戻って来る。

「アンドレア、もういいの?」
「いいのって……もう、エリーゼ! わたくしをいきなり驚かせないで……!」

 アンドレアの猛抗議は、したり顔で飛ばされたウィンクひとつであっさりとエリーゼに(かわ)されてしまった。

 そんな束の間の平穏な日々の中、運命の時は着実に近づいていたのだった。

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