ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?
 始終無言で聞いていた祖父は満足げに破顔した。
 その後アンドレアは、アンドレアにも蝋人形が必要なこと、アンドレア自身の人生を捨てる覚悟だということ、その後は我が子を守るため身分を偽って生きていく心づもりであること、そのすべてを嘘偽りなく祖父に訴えた。
 祖父は何ひとつ否定することなく、アンドレアの要求を受け入れてくれた。

(本当に蝋人形が届けられるか、本音を言うと不安もあったけれど……)

 あれだけ精妙な作りのものだ。
 せめてライラの子が産まれる前までに、間に合って欲しいと日々祈りながら過ごしていた。

「それが思いのほか早く届いたというわけか」
「ええ、産まれてくるにはまだひと月余裕があったから、わたくしは早産で死んだことにしたのよ」

 エドガーに事情を話し終えたころ、ようやく通路は出口に辿り着いた。

「すぐそこに馬車を待たせてある」

 月明りもない外に出ると、庭木の生い茂る裏庭のようだった。
 フードを目深にかぶり直し、闇夜に紛れて足場のよくない小路を進んだ。
 しばらく進むと、質素な黒塗りの馬車が見えてくる。

「乗り心地はあまり良くないが、そこは我慢してくれ」
「問題ないわ」

 確かに中は狭く、貴族が乗るような華美な作りではなかった。
 硬い座席にはクッションがいくつも敷き詰められている。
 エドガーのせめてもの心遣いなのだろう。
 それを感じ、アンドレアは小さな笑みを浮かべた。

「俺が馬車を走らせる。何かあったらすぐに声をかけてくれ」

 アンドレアの手を引いて馬車に乗せると、エドガーは素早く御者台へと昇った。

「行くぞ」

 軋んだ音を立て、車輪が回り始める。
 次第に速度を増した馬車は、またたく間に暗闇へと溶け込んでいった。

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