失恋したので復讐します
日を改めて打ち合わせをすることを約束して、それぞれの仕事に戻った。
傷つき落ち込んだ心に、確かな希望が広がっていくのを千尋は感じていた。
退勤時間になると、千尋は文美と連れ立って会社を出た。
日中の出来事を心配した文美が、夕食に誘ってくれたのだ。
ふたりでよく行くイタリアンレストランに入り、パスタとアイスティーを注文した。
「あの後、大丈夫だったの?」
「うん、なんとか」
「……たしかにお昼のときよりへこんでないように見えるね。引きずってないみたいでよかった」
文美が千尋の顔をじっと見つめる。
「うん、実はちょっと意識改革をしたというか……」
千尋は啓人への復讐を決心したことを文美に話した。といっても穂高に協力してもらうというのは伏せている。
協力する件について彼から秘密にしてと言われているわけではないが、バーテンダーのバイトについては秘密にするように頼まれているからだ。
「え……そんなこと考えてるの?」
話を聞いた文美が、意外そうな表情になった。
「うん。彼とはもう無理なんだってわかったし、ずっと落ち込んでいるよりいいかと思って」
文美が大きくうなずいた。
「そうだよ。あんな男にいつまでも未練を持ってるより、前向きに考えた方が絶対千尋のためになる。その考えは私も大賛成」
「……前から思ってたんだけど、文美って啓人……辻浦君のこと嫌い?」
千尋が啓人と付き合っているときは気を使ってくれていたのか、あからさまな啓人批判はしていなかった。
でもここ数日は、啓人に対する言葉のひとつひとつがかなり厳しい。
初めは千尋に同情して怒ってくれているからだと思っていたが、どうやらそれだけではないような気がする。
「実は前から胡散くさいと思ってた。千尋が幸せそうにしてるから言えなかったけど、あの人結構卑怯なことしてると思う」
文美は悩むそぶりもなく答えた。
「卑怯なことってなんかあったの?」
前から思っていたのなら、今回の千尋の失恋とは別件だろう。
「仕事のやり方とかよく見ると、他人を利用しすぎるところがあるから。おとなしい同期とか後輩とか、人を選んでうまく立ち回ってると思うよ。一見人あたりがいいから、周囲は気づきにくいみたいだけど」
「……そうなんだ」
啓人は千尋にいろいろな仕事を振っていたけれど、ほかの同僚にも同じようなことをしていたというのだろうか。
(全然気づかなかった)
でも建築デザイン部の同僚や取引先など、多くの人は啓人を信頼している。
きっと彼の人柄に問題を感じているのは、文美のような勘がいい人などごく一部だろう。
「ところで辻浦を見返す方法だけど、具体的にはどうするの?」
文美が興味深そうに聞いてくる。
「いろいろ考えてはいるんだ。仕事では成果を出して社内での自分の評価を変えられたらと思ってるんだけど……」
「そうだね。千尋は今のところ過小評価されすぎだもの」
「そうかな? 自分では妥当かなと思ってるけど。他部署で私の存在すら知らない人もいたくらいだし」
はっきり言って、今の自分に自信は全然ない。
「仕事柄前面に出ないからね。でも千尋の仕事はすごく親切だし助かってる人もたくさんいると思うよ。それに見かけよりも根性があるじゃない? 辻浦の仕事を手伝うために建築模型士の勉強までしたくらいなんだから」
「……仕事への熱意とはちょっと違ったけどね」
ただ啓人に喜んでほしくてがんばっただけだ。結局便利に使われただけだったけれど。
「動機がなんであれ、やる気になったらやる女だってことよ」
力強い文美の言葉に、千尋はわずかに微笑んだ。
「そうだね。今回もやる気だけはあるからがんばってみる」
「わかった。私も応援するね」
「ありがとう」
頼りになる友人に、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「今ある仕事を積極的にがんばって、言われっぱなしの気弱な性格も変えたいな」
そうでなければ、啓人を見返すなんて到底無理だから。
「昼間辻浦に仕事を押しつけられそうになっても、言いなりにならなかったんでしょ? 一歩前進だよ。がんばってる」
「そ、そうかな?」
「うん。あとは存在感もアピールしなくちゃね」
文美が千尋をじっと見つめる。頭のてっぺんからサーチされているようで居たたまれなくなる。
「千尋は無難なファッションを好むよね。そこから変えてみたら? 素材はいいんだから、もう少しおしゃれすればいいって前から思ってたんだ」
傷つき落ち込んだ心に、確かな希望が広がっていくのを千尋は感じていた。
退勤時間になると、千尋は文美と連れ立って会社を出た。
日中の出来事を心配した文美が、夕食に誘ってくれたのだ。
ふたりでよく行くイタリアンレストランに入り、パスタとアイスティーを注文した。
「あの後、大丈夫だったの?」
「うん、なんとか」
「……たしかにお昼のときよりへこんでないように見えるね。引きずってないみたいでよかった」
文美が千尋の顔をじっと見つめる。
「うん、実はちょっと意識改革をしたというか……」
千尋は啓人への復讐を決心したことを文美に話した。といっても穂高に協力してもらうというのは伏せている。
協力する件について彼から秘密にしてと言われているわけではないが、バーテンダーのバイトについては秘密にするように頼まれているからだ。
「え……そんなこと考えてるの?」
話を聞いた文美が、意外そうな表情になった。
「うん。彼とはもう無理なんだってわかったし、ずっと落ち込んでいるよりいいかと思って」
文美が大きくうなずいた。
「そうだよ。あんな男にいつまでも未練を持ってるより、前向きに考えた方が絶対千尋のためになる。その考えは私も大賛成」
「……前から思ってたんだけど、文美って啓人……辻浦君のこと嫌い?」
千尋が啓人と付き合っているときは気を使ってくれていたのか、あからさまな啓人批判はしていなかった。
でもここ数日は、啓人に対する言葉のひとつひとつがかなり厳しい。
初めは千尋に同情して怒ってくれているからだと思っていたが、どうやらそれだけではないような気がする。
「実は前から胡散くさいと思ってた。千尋が幸せそうにしてるから言えなかったけど、あの人結構卑怯なことしてると思う」
文美は悩むそぶりもなく答えた。
「卑怯なことってなんかあったの?」
前から思っていたのなら、今回の千尋の失恋とは別件だろう。
「仕事のやり方とかよく見ると、他人を利用しすぎるところがあるから。おとなしい同期とか後輩とか、人を選んでうまく立ち回ってると思うよ。一見人あたりがいいから、周囲は気づきにくいみたいだけど」
「……そうなんだ」
啓人は千尋にいろいろな仕事を振っていたけれど、ほかの同僚にも同じようなことをしていたというのだろうか。
(全然気づかなかった)
でも建築デザイン部の同僚や取引先など、多くの人は啓人を信頼している。
きっと彼の人柄に問題を感じているのは、文美のような勘がいい人などごく一部だろう。
「ところで辻浦を見返す方法だけど、具体的にはどうするの?」
文美が興味深そうに聞いてくる。
「いろいろ考えてはいるんだ。仕事では成果を出して社内での自分の評価を変えられたらと思ってるんだけど……」
「そうだね。千尋は今のところ過小評価されすぎだもの」
「そうかな? 自分では妥当かなと思ってるけど。他部署で私の存在すら知らない人もいたくらいだし」
はっきり言って、今の自分に自信は全然ない。
「仕事柄前面に出ないからね。でも千尋の仕事はすごく親切だし助かってる人もたくさんいると思うよ。それに見かけよりも根性があるじゃない? 辻浦の仕事を手伝うために建築模型士の勉強までしたくらいなんだから」
「……仕事への熱意とはちょっと違ったけどね」
ただ啓人に喜んでほしくてがんばっただけだ。結局便利に使われただけだったけれど。
「動機がなんであれ、やる気になったらやる女だってことよ」
力強い文美の言葉に、千尋はわずかに微笑んだ。
「そうだね。今回もやる気だけはあるからがんばってみる」
「わかった。私も応援するね」
「ありがとう」
頼りになる友人に、感謝の気持ちでいっぱいだ。
「今ある仕事を積極的にがんばって、言われっぱなしの気弱な性格も変えたいな」
そうでなければ、啓人を見返すなんて到底無理だから。
「昼間辻浦に仕事を押しつけられそうになっても、言いなりにならなかったんでしょ? 一歩前進だよ。がんばってる」
「そ、そうかな?」
「うん。あとは存在感もアピールしなくちゃね」
文美が千尋をじっと見つめる。頭のてっぺんからサーチされているようで居たたまれなくなる。
「千尋は無難なファッションを好むよね。そこから変えてみたら? 素材はいいんだから、もう少しおしゃれすればいいって前から思ってたんだ」