失恋したので復讐します
「うん。外見を変えようと考えてはいるんだ。文美が言うように、これまではセンスに自信がないからつい無難なものを選んじゃってたから。あとおしゃれなお店に入って[T86]店員さんから話しかけられると気後れしちゃって」
お似合いですよというリップサービスが居たたまれなくなるし、買わないと悪いかなという気分になってしまうため苦手だったのだ。
だから服の購入はだいたいオンラインショップで済ませていた。
誰からもアドバイスを受けないからか、気づけば毎回同じようなものを買っている。
「センスがないんじゃなくて経験が足りないんだよ。私も失敗しながら自分に合うものがわかるようになったんだよ。そうだ、明日買い物に行こうよ」
「明日?」
急な話だが、文美はかなり張りきっている。
「さっさと仕事終わらせて行こう! 私も欲しい靴あるし」
「うん、わかった」
流行に敏感でセンスがある文美と一緒なら安心だ。
翌日。千尋はこれまでにないスピードで午後の仕事を片づけて、文美とともに会社を出た。
久しぶりのショッピングは楽しかった。
文美に連れ回されて、ひとりだったら絶対に入らないような、千尋の趣味ではない系統のショップに立ち寄り、これまでなら選ばなかったであろう華やかな服を手に取った。
初めは気が進まなくても、文美やショップの店員が勧めてくれる服は、千尋に意外と似合っていたので購入した。
今までお金がかかる趣味やコレクションなんてなにもなく、とても地味な生活をしていた。
まとまった出費といえば啓人とのデート代やプレゼント代くらいだったし、もともと浪費ができない性格なので、それなりにお金がたまっている。
しかし今回は自分が変わるために必要な経費だと思って、お金を惜しむつもりはなかった。
ダイエットをして痩せるつもりなので、一週間程度は着回せる[T87]服を揃(そろ)えることにした。
ほかにも靴やバッグ、アクセサリーなど。最後には両手が塞がってしまっていた。
「千尋、思いきったね」
「うん、こんなに買い物したのは初めてかも」
それでも自分のための買い物は思っていたよりもずっと楽しかった。
「全部、似合ってた。印象かなり変わりそうだよね」
「文美のアドバイスのおかげだよ」
少しずつ自分が変わっていく気がする。
それは気持ちが明るく舞い上がるような喜びだった。
[988][RY89]その週の土曜日の午後。千尋は文美の知人がオーナーを務めるヘアサロンに行った。
ネットで調べるとサロンは予約を取るのが難しい人気店らしく、洗練された女性客でいっぱいだった。
新しく買った服を着て千尋なりにおしゃれしてきたものの、場違いなところに来てしまったような居たたまれなさを感じる。
千尋は少し気後れしながら、出迎えてくれたオーナーに頭を下げた。
「忙しいところ急なお願いをしてしまい申し訳ありません。よろしくお願いします」
「文美ちゃんから事情は聞いているので大丈夫ですよ。今日はどんなスタイルにしましょうか?」
「ええと少し印象を変えたいと思ってるんですけど……」
漠然としたオーダーだがオーナーは慣れているのか、いくつかのスタイルを提案してくれた。その後も千尋が緊張しないように話題を振りながらカットを進めていく。
量が多く真っすぐな黒髪のロングヘアは上品なミルクティーブラウンという色に染めて、アレンジしやすい肩より少し長めのセミロングに。前髪は斜めにふわりと流すような形にした。
ヘアスタイルを変えただけなのに、鏡に映る自分はいつもと全然違って見えた。
存在感がないぱっとしない自分から、明るくて人生を楽しんでいる自分になったような気がする。
「お似合いですね」
オーナーと鏡越しに目が合うと、満足そうに微笑まれた。
「すごく素敵にしてくれて、ありがとうございます」
千尋もにこりと笑顔で返す。
「気に入ってもらえてよかったです。よかったら家でのお手入れの仕方を説明しましょうか?」
「お願いします!」
「はい。アイロンはお持ちですか?」
「あ、ないんですけど買う予定なので教えてください」
「わかりました。まずはサイドの髪を……」
(帰りに家電店に寄ろう)
千尋はそう決心しながら、オーナーのレクチャーに真面目に耳を傾けた。
ヘアサロンを出た後は、その足で百貨店のコスメカウンターに向かった。
千尋は今までドラッグストアで購入できるメイク用品を使用していたが、文美に言われて高級ブランドのものを一式揃えることにしたのだ。
『高いけど発色が綺麗だし、意外と長持ちするから買って損はないよ』
お似合いですよというリップサービスが居たたまれなくなるし、買わないと悪いかなという気分になってしまうため苦手だったのだ。
だから服の購入はだいたいオンラインショップで済ませていた。
誰からもアドバイスを受けないからか、気づけば毎回同じようなものを買っている。
「センスがないんじゃなくて経験が足りないんだよ。私も失敗しながら自分に合うものがわかるようになったんだよ。そうだ、明日買い物に行こうよ」
「明日?」
急な話だが、文美はかなり張りきっている。
「さっさと仕事終わらせて行こう! 私も欲しい靴あるし」
「うん、わかった」
流行に敏感でセンスがある文美と一緒なら安心だ。
翌日。千尋はこれまでにないスピードで午後の仕事を片づけて、文美とともに会社を出た。
久しぶりのショッピングは楽しかった。
文美に連れ回されて、ひとりだったら絶対に入らないような、千尋の趣味ではない系統のショップに立ち寄り、これまでなら選ばなかったであろう華やかな服を手に取った。
初めは気が進まなくても、文美やショップの店員が勧めてくれる服は、千尋に意外と似合っていたので購入した。
今までお金がかかる趣味やコレクションなんてなにもなく、とても地味な生活をしていた。
まとまった出費といえば啓人とのデート代やプレゼント代くらいだったし、もともと浪費ができない性格なので、それなりにお金がたまっている。
しかし今回は自分が変わるために必要な経費だと思って、お金を惜しむつもりはなかった。
ダイエットをして痩せるつもりなので、一週間程度は着回せる[T87]服を揃(そろ)えることにした。
ほかにも靴やバッグ、アクセサリーなど。最後には両手が塞がってしまっていた。
「千尋、思いきったね」
「うん、こんなに買い物したのは初めてかも」
それでも自分のための買い物は思っていたよりもずっと楽しかった。
「全部、似合ってた。印象かなり変わりそうだよね」
「文美のアドバイスのおかげだよ」
少しずつ自分が変わっていく気がする。
それは気持ちが明るく舞い上がるような喜びだった。
[988][RY89]その週の土曜日の午後。千尋は文美の知人がオーナーを務めるヘアサロンに行った。
ネットで調べるとサロンは予約を取るのが難しい人気店らしく、洗練された女性客でいっぱいだった。
新しく買った服を着て千尋なりにおしゃれしてきたものの、場違いなところに来てしまったような居たたまれなさを感じる。
千尋は少し気後れしながら、出迎えてくれたオーナーに頭を下げた。
「忙しいところ急なお願いをしてしまい申し訳ありません。よろしくお願いします」
「文美ちゃんから事情は聞いているので大丈夫ですよ。今日はどんなスタイルにしましょうか?」
「ええと少し印象を変えたいと思ってるんですけど……」
漠然としたオーダーだがオーナーは慣れているのか、いくつかのスタイルを提案してくれた。その後も千尋が緊張しないように話題を振りながらカットを進めていく。
量が多く真っすぐな黒髪のロングヘアは上品なミルクティーブラウンという色に染めて、アレンジしやすい肩より少し長めのセミロングに。前髪は斜めにふわりと流すような形にした。
ヘアスタイルを変えただけなのに、鏡に映る自分はいつもと全然違って見えた。
存在感がないぱっとしない自分から、明るくて人生を楽しんでいる自分になったような気がする。
「お似合いですね」
オーナーと鏡越しに目が合うと、満足そうに微笑まれた。
「すごく素敵にしてくれて、ありがとうございます」
千尋もにこりと笑顔で返す。
「気に入ってもらえてよかったです。よかったら家でのお手入れの仕方を説明しましょうか?」
「お願いします!」
「はい。アイロンはお持ちですか?」
「あ、ないんですけど買う予定なので教えてください」
「わかりました。まずはサイドの髪を……」
(帰りに家電店に寄ろう)
千尋はそう決心しながら、オーナーのレクチャーに真面目に耳を傾けた。
ヘアサロンを出た後は、その足で百貨店のコスメカウンターに向かった。
千尋は今までドラッグストアで購入できるメイク用品を使用していたが、文美に言われて高級ブランドのものを一式揃えることにしたのだ。
『高いけど発色が綺麗だし、意外と長持ちするから買って損はないよ』