失恋したので復讐します
千尋と母だけではなく、親族みんなが素朴というかぼやっとしている。
(遺伝子が強いよね)
ここに穂高が交じったら、きっと浮きまくるだろう。
(すずめの群れの中に白鳥が交じった感じ?)
想像するとくすっと笑ってしまった。
宴会のような食事が終わり片づけをすると、くたくただった。
なんとかお風呂を済ませてからベッドにごろりと寝転ぶ。
帰省中はずっとこんなふうに、賑やかに過ごすのだろう。
(……相川君は今頃なにをしているのかな?)
彼は帰省しないと言っていた。旅行にでも行くのだろうか。それともアウロラでバイトでもするのだろうか。
手もとにあったスマホの画面をタップする。
穂高にメッセージを送ってみようかと一瞬考えたけれど、やめた。
たいした用事でもないのに送ったら迷惑だろう。
仲よくなったとはいえ、あまりなれなれしくするのもよくない。
千尋はそっと目を閉じた。
(相川君にお土産を買って帰ろうかな)
観光地だけあってお土産品には事欠かない。
彼はどんなものが好きだろう。そんなことを考えていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
一月五日。新年初出勤は挨拶から始まる。
「あけましておめでとうございます」
あちこちで声があがる中、千尋も上司や近くの席の同僚に声をかける。
ひと通り終わると席に着いた。
久しぶりの会社のパソコン。
(あれ、パスワードってなんだっけ?)
一週間離れていただけなのに、すごく時間が経っている気がする。
(仕事がいっぱいたまってそうだな……)
取引先によっては正月休みが短いから、連絡メールがたまっているかもしれない。
メーラーを立ち上げたりしていると、ふと視線を感じた。
顔を上げてキョロキョロすると、入口近くでコートを脱いでいる穂高の姿が目に入った。
(あ、相川君だ。久しぶりだな~)
伏せていた穂高の目が千尋に向く。
目が合った瞬間、千尋の心臓がどくんと大きな音を立てた。
気持ちが落ち着かず、鼓動がますます速くなる。
(あれ?)
千尋は胸に手をやった。なぜこんなに動揺しているのだろう。
そんな千尋の態度を見ていた穂高が、怪訝そうに目を細めた。彼は休みの間に髪を切ったようだ。少し短くなったせいか形のよい眉がよく見える。その下の綺麗なアーモンド形の目。
ずっと見ていたくて目が離せない。
「あけましておめでとうございます」
ぼんやりしている千尋のもとに穂高がやって来た。
「あ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
声が少し上ずっている。でも気持ちはもっと舞い上がっている。
「……なんでにやにやしてるの?」
穂高の表情が怪しいものを見たときのように警戒したものになる。
「にっ、にやにやなんてしてません」
千尋は慌てて反論した。たしかに浮かれているが、そんなに顔に出ていないはずだ。
「鏡貸そうか?」
「……そんなに変だった?」
「変っていうか、休み明けの仕事で喜んでるのって、たぶん山岸さんくらいだと思う」
「そんなことないでしょ?」
「ある。なにかいいことあった?」
「いいこと? ……とくには」
千尋がうきうきしているのは、穂高が出社したときからだ。
これじゃあまるで千尋が穂高に会えて喜んでいるみたいだ。
いや、まるでではなく実際そうなのかもしれない。
帰省している間は、頻繁に穂高のことを思い出していた。
今、なにをしているのだろうとか、この場に彼がいたら楽しいかもしれないとか、あれこれ想像していた。
張りきってお土産も選んだ。
千尋は机に置いたままのバッグに目を向けた。中には穂高用のお土産が入っている。今日渡そうと忘れずに持ってきたのだ。
「どうかした?」
無言になった千尋に、穂高が戸惑った様子で尋ねてきた。
「……なんでもない」
「それならいいけど。じゃあ俺はそろそろ行くから」
穂高は上司に挨拶をするのか、フロアの奥の方に向かっていく。
その後ろ姿を見送った千尋は、すとんと椅子に腰を下ろした。
(……もしかしたら私、相川君のことが好きなのかもしれない)
休みの間、啓人のことを思い出して悩むことがなかった。
それは千尋の中で、啓人への想いが消えたからではないだろうか。
久しぶりに穂高の顔を見て自然と喜びがこみ上げたのも、休みの間も彼のことを考えていたのも、いつの間にか彼に恋をしていたからなのだ。
(まさか……信じられない)
啓人にこっぴどくふられて一カ月が経ったばかりだ。
ひとつの恋を忘れて、次の恋に向かうには短すぎる。
なにより千尋は今、元カレを見返す〝復讐〟の最中だというのに。
しかも好きになった相手は、よりによって復讐の共犯[T194]者というどうしようもない状況。
(遺伝子が強いよね)
ここに穂高が交じったら、きっと浮きまくるだろう。
(すずめの群れの中に白鳥が交じった感じ?)
想像するとくすっと笑ってしまった。
宴会のような食事が終わり片づけをすると、くたくただった。
なんとかお風呂を済ませてからベッドにごろりと寝転ぶ。
帰省中はずっとこんなふうに、賑やかに過ごすのだろう。
(……相川君は今頃なにをしているのかな?)
彼は帰省しないと言っていた。旅行にでも行くのだろうか。それともアウロラでバイトでもするのだろうか。
手もとにあったスマホの画面をタップする。
穂高にメッセージを送ってみようかと一瞬考えたけれど、やめた。
たいした用事でもないのに送ったら迷惑だろう。
仲よくなったとはいえ、あまりなれなれしくするのもよくない。
千尋はそっと目を閉じた。
(相川君にお土産を買って帰ろうかな)
観光地だけあってお土産品には事欠かない。
彼はどんなものが好きだろう。そんなことを考えていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。
一月五日。新年初出勤は挨拶から始まる。
「あけましておめでとうございます」
あちこちで声があがる中、千尋も上司や近くの席の同僚に声をかける。
ひと通り終わると席に着いた。
久しぶりの会社のパソコン。
(あれ、パスワードってなんだっけ?)
一週間離れていただけなのに、すごく時間が経っている気がする。
(仕事がいっぱいたまってそうだな……)
取引先によっては正月休みが短いから、連絡メールがたまっているかもしれない。
メーラーを立ち上げたりしていると、ふと視線を感じた。
顔を上げてキョロキョロすると、入口近くでコートを脱いでいる穂高の姿が目に入った。
(あ、相川君だ。久しぶりだな~)
伏せていた穂高の目が千尋に向く。
目が合った瞬間、千尋の心臓がどくんと大きな音を立てた。
気持ちが落ち着かず、鼓動がますます速くなる。
(あれ?)
千尋は胸に手をやった。なぜこんなに動揺しているのだろう。
そんな千尋の態度を見ていた穂高が、怪訝そうに目を細めた。彼は休みの間に髪を切ったようだ。少し短くなったせいか形のよい眉がよく見える。その下の綺麗なアーモンド形の目。
ずっと見ていたくて目が離せない。
「あけましておめでとうございます」
ぼんやりしている千尋のもとに穂高がやって来た。
「あ、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
声が少し上ずっている。でも気持ちはもっと舞い上がっている。
「……なんでにやにやしてるの?」
穂高の表情が怪しいものを見たときのように警戒したものになる。
「にっ、にやにやなんてしてません」
千尋は慌てて反論した。たしかに浮かれているが、そんなに顔に出ていないはずだ。
「鏡貸そうか?」
「……そんなに変だった?」
「変っていうか、休み明けの仕事で喜んでるのって、たぶん山岸さんくらいだと思う」
「そんなことないでしょ?」
「ある。なにかいいことあった?」
「いいこと? ……とくには」
千尋がうきうきしているのは、穂高が出社したときからだ。
これじゃあまるで千尋が穂高に会えて喜んでいるみたいだ。
いや、まるでではなく実際そうなのかもしれない。
帰省している間は、頻繁に穂高のことを思い出していた。
今、なにをしているのだろうとか、この場に彼がいたら楽しいかもしれないとか、あれこれ想像していた。
張りきってお土産も選んだ。
千尋は机に置いたままのバッグに目を向けた。中には穂高用のお土産が入っている。今日渡そうと忘れずに持ってきたのだ。
「どうかした?」
無言になった千尋に、穂高が戸惑った様子で尋ねてきた。
「……なんでもない」
「それならいいけど。じゃあ俺はそろそろ行くから」
穂高は上司に挨拶をするのか、フロアの奥の方に向かっていく。
その後ろ姿を見送った千尋は、すとんと椅子に腰を下ろした。
(……もしかしたら私、相川君のことが好きなのかもしれない)
休みの間、啓人のことを思い出して悩むことがなかった。
それは千尋の中で、啓人への想いが消えたからではないだろうか。
久しぶりに穂高の顔を見て自然と喜びがこみ上げたのも、休みの間も彼のことを考えていたのも、いつの間にか彼に恋をしていたからなのだ。
(まさか……信じられない)
啓人にこっぴどくふられて一カ月が経ったばかりだ。
ひとつの恋を忘れて、次の恋に向かうには短すぎる。
なにより千尋は今、元カレを見返す〝復讐〟の最中だというのに。
しかも好きになった相手は、よりによって復讐の共犯[T194]者というどうしようもない状況。