宿命の王女と身代わりの託宣 -龍の託宣4-
 瞳を輝かせて称賛の声を贈る。
 しかしマルコは裏腹に泣きそうな顔でうつむいた。枝を握る手に力が入って、唇を噛みしめる。

「こんな力あったって、なんの役にも立たないんだ」

 絞り出すような声に、リーゼロッテの顔から笑顔が消える。横の手すりでマンボウも、悲しそうに頚を傾けた。

「ボクの両親はクマに襲われて殺されたんです。夢見でそれが分かっていたのに、ボクはふたりを助けられなかった」
「マルコ様……」
「あっ! すみません、初対面の人にいきなりこんな話してっ」
「いいえ……そんなおつらい目に……」

 はらはらとリーゼロッテの瞳から涙がこぼれ落ちた。それを見たマルコの頬が、熟れたビョウのように真っ赤に染まる。

「あっ、いえっ、そのっ、そんなっ、ああっっ!」
「マルコ様!」

 慌てた拍子にマルコは見事に枝から落下した。恐る恐る下を覗き込むと、猿のように逆さになってなんとか枝にぶら下がっている。

「あ! 用事が終わったようです。ボク、もう行かないと!」

 遠くの庭に視線を送り、マルコはするすると器用に木を降りていく。そのまま駆けだして、途中で急ブレーキをかけるように足を止めた。振り返ったかと思うと、リーゼロッテに向けてぺこりと大きくお辞儀する。

「今日は助かりました!」

 返事をする前に走り出し、マルコはあっという間に行ってしまった。

「またお話しできるかしら……?」
 リーゼロッテの疑問符に、マンボウが「オエッ」と返事した。

 急に静寂が舞い戻り、風が頬をすり抜けていく。余計に寂しい気持ちになってしまった。

(……いつまでここにいないといけないんだろう)

 ジークヴァルトも忙しいようで、あれ以来は手紙のやり取りだけだ。帰るめどは立たないものか、一度王女に聞いてみたかった。
 だが狭い東宮でもなかなか会う機会はない。それにヘッダから、王女の目につくような場所には行くなと、何度もきつく言われていた。

(クリスティーナ様はご病弱らしいから、ヘッダ様は負担をかけたくないのね)

 厄介者は自分のほうなのだ。そう思うとおとなしくしておくほかないだろう。

「マンボウとおしゃべりできたらよかったのに」
「オエッ?」

 分かっているのかいないのか、マンボウは不思議そうに小首をかしげた。

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